小説 川崎サイト

 

八人様

川崎ゆきお


 かなり広い喫茶店に老人が集っている。八人ほどいるだろうか。全て男性だ。何かの団体らしいが、ほぼ毎日来ている。だから、毎日集会をやっている。その両隣にも老人がいる。こちらは一人客だ。年齢的には同じだし、その服装も同じ。
 老人集団の中の一人が立ち上がり、腰を何度も落とす動作を繰り返した。健康体操のようで、それを実演している。そういうことが話題になり、実際にやり方を見せたのだろう。そんな動きをしても構わない団体らしい。健康管理団体かもしれない。
 八人もの団体で、毎日来ているということは、この組織は老人クラブ的なものかもしれない。町内の自治会館、昔で言えば集会所のような所で結成されたものではないように思える。それならその会館なり、施設で集まるだろう。ということはノマドだろうか。
 特定の巣窟を持たない老人クラブ。だから、公園でも喫茶店でもいいのだ。ただ、彼らはお喋りが好きなようだ。特定の活動をしないように見受けられる。たとえば囲碁とか麻雀とかだ。これをすると、参加できない人が出る。
 その八人様の中で、一度も発言をしていない人がいる。三人はいるだろうか。頷いたり、感心したり、笑ったり、相づちは打っている。
 その一メートルも離れていない隣のテーブルで、別の老人がかなり大きなノートパソコンを開けている。二キロを超えるのではないかと思う。きっと液晶サイズが大きいので、文字が読みやすいのだろう。肩の疲労より、目の疲労を優先させているようだ。
 八人様と、隣の巨大ノートパソコン客との間には、明らかに仕切りがある。そのお一人様は何か作業をしている。プリントを見ながらモニターに向かい、タイプしている。老人クラブとは別種の世界だ。さらにその近くにいる老人客は瞑想中だ。ただ、八人様の声が聞こえているはずで、修行の邪魔になる。実際には、ぼんやりしているだけなのだろう。
 少し離れたテーブルにもう一人、紳士風の老人がいる。これは服装が上等で、きっちりとしたものを着ている。これも八人様とは明らかに別の世界にいる。世界とは仕切りだ。
 その老紳士は当然のように八人様の弾んだ会話に不快感を示している。紳士らしくないので、表情には出さないが。
 この八人様。徒党を組んであちらこちらへ出没するのかもしれない。これだけの人数は一寸した兵力だ。生活範囲内では怖い物なしで、流していけるだろう。
 
   了


2013年3月21日

小説 川崎サイト