小説 川崎サイト

 

落ち着いたもの

川崎ゆきお


 作田は特に何もしていない。これといった仕事をしていないということで、自宅警備組だ。趣味もなく交際範囲も少ない。そのため自宅で過ごすことが多い。
 それで、テレビを見て過ごしていたのだが、どうも落ち着かない。アクティブなのはテレビの中の人達で、見ている自分ではない。これが落ち着かない理由かどうかは分からないが、自分と同じような人を見たい。ただ、そんな番組は退屈なので、誰も見ないだろう。
 ではどんなものが落ち着くのだろう。
 たまに街角をカメラがゆるりと行く番組をやっていた。行き交う人や、街角の人を撮しているだけ。市場などでは、珍しいものが売られている。だが、その解説はない。あくまでも風景のためだ。
 それはいいのだが、ずっと見ていると目がおかしくなる。微妙に動いているためだ。ブレを極力抑える装置を付けているらしいが、それでもゆらりゆらりとしている。
 また、映っているものはのんびりとしており、落ち着いているのだが、カメラがアクティブなのだ。つまり重い機材を抱えながら歩いているわけなので。
 そうなると、静止画がよくなる。普通の絵や写真だ。それらを見ながら、色々と想像する方が落ち着く。
 絵は画かれたところで終わっている。それ以上動き出さない。だが、その前後は想像できる。写真もそうだ。
 そういうのを見ていると落ち着くのは、作田のペースで見ているためだろう。見せられているのではなく、色々なものを見ているのだ。この色々とは、全て想像で、そんなことが画かれているわけではない。だから、自分のペースなのだ。しかもオリジナルな。
 その意味でテレビドラマもを見るよりも、活字の本を読んでいる方が若干自由度が高い。ストーリーの本質は変わらないが、人物や風景の描写から、その具体的な映像を自分で想像する。だから、これも作田のペースで読んでいける。
 そう考えると、落ち着いたものとは、自分のペースでやっていけるものとなる。その場合、多少はアクティにならないと駄目だ。想像するのだから。
 
   了



2013年4月6日

小説 川崎サイト