小説 川崎サイト

 

春眠

川崎ゆきお


 春眠暁を覚えず。と言う。季候がよくなってきたので、よく眠れるのだろう。昼間でも眠いときがある。
 増岡は春になると眠くなる。頭がしっかりしない。集中力も長く続かない。しかし、そのうとうととした感じは神が与えた至福の時ではないかと思っている。このとき、あまり心配事はない。眠いのでその配慮がないのだろう。
 その代わり、いいことがあっても、真にそれを楽しむようなこともない。これはもったいない話なのだが。
 さすがに歩いているときはうとうとしていないが、見えてくる風景もぼんやりとしている。穏やかに見ているのだろうか。と言って冷静ではない。頭がよく回らないだけかもしれない。
 これは暇なときはいいが、何かをやろうとしているときは妨げになる。
 また、そのようにぼんやりとしているとき、何かの隙間が生じる。ぼんやり病、うっかりミスなどだ。配慮が足りないのだ。
 この隙間とは、隙が出来るため、防御が甘かったりする。その隙を攻撃されやすい。その箇所はノーガードだ。
 そのため、増岡は歩いるときは最低限のガードはしている。特に車には注意している。ただ、そういうのはいくら注意しても、避けられないこともあるのだが。
 その日も増岡は春の陽気に誘われ、散歩に出た。もう十分春眠暁を覚えずをやったので、それ以上眠れない。
 のんびり過ごせ、しかも比較的安全な公園に行った。池を中心にちょっとした森になっている。歩道も広く、花壇には春の花々が咲いている。
 ベンチや芝生で寝ている人もいる。ホームレスのテントがあったのだが、追い出されたのか、跡形もない。ただそこだけ草が生えていない。だから、跡形はある。
 小さな子供が自転車の練習をしている。年寄りが重そうなカメラバッグを肩に掛けながら、花を撮している。
 そういうのを見ていると、ますます眠くなる。
 増岡はほぼ一周したので、適当な草地に尻を落とす。あとでズボンの尻に青汁が付きそうだが。
 座ったので視線が低くなる。
 実に平和だ。
 そのうち飽きてきたのか、増岡は戻ることにした。
 春の眠気を楽しむ。安上がりでいい。
 
   了

 




2013年4月11日

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