小説 川崎サイト

 

聞き上手

川崎ゆきお


 人の話を聞きながら、すぐに相手の話ではなく、自分の話にしてしまう人がいる。扱っているネタは同じだが、主人公が変わっているのだ。そして最初話していた人は、完全に聞き手となる。それを自分の話として取り戻そうとしても、なかなか渡してくれない。
 聞き上手こそ話し上手と言うが、結果的には人の話を取り上げてしまうことかもしれない。
 そして、人の話を聞いているときは、いつそれを奪おうかと隙あらば伺っているようなものだ。ただそれは一般的ではなく、そういう人が結構いるという程度の話だが。
 作田は自分の話を盗られ放題の方が楽だと思っている。つまり彼は自分が主人公の話よりも、他人のストーリーを聞くパターンが多い。そのため「話取り放題」の人と作田とは相性がいい。
 ただ、そんな作田でも、ただ単に聞いているだけではない。自分の場合はどうだろうかと思いながら聞いている。口にさえ出さないものの、自分の話を内面でやっているのだ。だから、作田も結局は人の話を聞いていない。
 作田は聞き上手だと言われているが、相手の話を停めたり自分側に持ち込まないだけ。また、聞き上手は話し上手ではない。話さないからだ。
 しかし、喋り出すと作田はかなり話がうまい。それをやり出すとついつい熱演し、相手に話を渡さない。それが分かっているから、自分の話に持ち込むことを避けているのだろう。これは確実に嫌われる。話し終えるまで時間がかかる。いくら話がうまいといっても、しばらくすると相手も飽きる。だから、最後まで語り切れないと不満だ。
 一見聞いているだけで満足しているような人でも、本当は自分も喋り倒したいのだろう。それが出来ないのは会話ラリーの中でのテクニックがないためだ。作田の場合は、そんな奪い合いをやるより、聞いているだけの方が楽なことがある。
 しかし、本来会話の醍醐味はラリーにある。話が何処へ転がっていくかが分からないところがよい。だから、自分の想いだけを互いに話しているだけでは、ラリーがない。ほとんど何も展開しないのだ。
 だが、このラリーは結構危険で、その人の本質に関わるところに迫られたとき、防御や攻撃といった戦いになる。そうなると、戦いのための戦いになり、ちょっとした話のちょっとした意外な話の展開による思わぬ刺激を味わうのとは少し違う。
 さて、作田が自分の意見や、自分の話に持ち込まないのは、防御のためかもしれない。
 だから、反論してこない相手なら、作田は結構雄弁に喋る。
 そして、それは作田に限らず、どんなタイプの人間でもあまり大差はないのかもしれない。
 
   了




2013年4月12日

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