小説 川崎サイト

 

吹きだまり

川崎ゆきお


 吹きだまり。風に吹かれて飛ばされた物が集まっている場所だろう。そこへ集まる気はなくても、自然とそこに集まる。さらに風が吹いても、そこからはもう飛ばない。さらに強い風が吹けば別だろうが。
 人だまりというのもある。ただ、人には意志があるので、勝手に集まるわけではない。風の流れではなく、気の流れかもしれない。
 富田は自転車で街中を意味なくうろついているとき、吹きだまりのような場所に出る。それが何となく人だまりのようにも感じられる。不思議と、その場所に出てしまうのだ。
「ああ、またここに出たのか」
 古そうな木がある。幹は太いのだが、背は低い。枝が邪魔なので、よく切られているのだろう。その下に石を細かく積み上げたような小さな塔がある。何重の塔かは分からないが、膝ぐらいの高さだ。そして傾いている。そのうち横に寝てしまうのではないかと思うのだが、富田がそれを発見してから数年経つが、そのままだ。
 誰かが来た。
 富田と同じように自転車に乗った散歩人らしい。彼も風に吹かれてここに飛ばされてきたのだろうか。
 ここは袋小路で行き止まりなのだ。家と塀の隙間はあるが、それは他人の庭だろう。だから、引き返さないといけない。
 その男は一度自転車から降り、ぐるっと車体を回転させ、引き返した。狭いので乗ったままハンドルが切れないのだ。
 その男とすれ違うように、また一人入ってきた。徒歩の人だ。そして古い木の下まできて、引き返した。彼は最初からここは行き止まりだと知っているようだ。この古い木や石の塔には御利益がないのか、拝んだりはしない。そういう設定が出来ていないのだろう。
 その人はいかにも散歩人という感じで、肩に小さなカメラをぶら下げている。
 ここが吹きだまりになるのは、流れないためだ。しかし人だまりが出来るほどの用事もない。
 あの古い木が引き寄せているのかもしれないが、背が低く、遠くからでも見えるわけではない。
「気力ではなく木力かもしれない」と富田は勝手な想像をする。実際には、この辺りの小道が、この古い木のある場所に通じているだけなのだ。そのため適当に走っていると、何となくここに出てしまう。別の道からでも、ここに簡単に入ってしまう。抜けのいい場所だが、袋小路の行き止まりで、そこから先はない。
 あるとすれば古い木だ。昔はもっと高かったのだろう。つまり、天に伸びていたのだ。その意味で行き止まりではないのかもしれない。
 
   了

 



2013年4月21日

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