小説 川崎サイト

 

卵石

川崎ゆきお


 路上に石が落ちていた。前田はいつも前屈みで歩いているので、すぐにそれを見つけた。石は卵形をしている。大きさもそんなものだ。近くに養鶏場はない。ニワトリに卵を産ませるため、石の卵を置くことがあると聞いたことがある。前田はすぐにそれを連想したのだが、石はつるっとしていない。自然にこんな形になることもあるだろうが、それならもう少し平べったいはずだ。
 天から落ちてきたのだろうか。それなら危なっかしい話だ。隕石ではないか。しかし、この石は河原でよく見かける。そうすると庭石か、砂利に混ざっていたものだろうか。その道は狭いがダンプカーが入り込めるほどはある。そこから落ちたのだろうか。
 前田は石を拾い、その下を見る。落ちたものなら、アスファルトに痕跡が残る。しかし、周囲にそれらしいものはない。そうなると転がってきたことになる。子供が転がして遊んでいたのだろうか。まさかいきなり、路面に現れたわけではあるまい。それなら大事件だ。
 前田はさらに周囲を見る。似たような石が落ちていないかどうか。この道は路肩まで舗装され、その端は側溝で、蓋がしてある。小石一つ、砂利一つない。
 誰かがそっと置いたのかもしれない。しかし、こんな石を持ち歩くとは思えないが、人の事情は分からない。
 絵付け用の石かもしれない。小学校で石に絵を書く授業でもあり、子供が適当な石を持ってきた。この石はざらっとしており、絵の具を乗せにくいだろう。しかし、形が卵形なので、人の顔などは描きやすい。輪郭が最初から出来ている。逆に言えば卵形でつるっとした石など滅多にない。
 前田はその石をポケットに入れ、家に帰った。
 そして、机の上にぽつんと置いた。
 三日ほど経つと、もう石に対する興味はなくなっていた。捨てようかと思ったが、別に邪魔になるものでもないと思い、そのまま放置した。実際には捨てるのが面倒だった。
 そしていつの間にかその石はすっかり馴染みのものとなった。机のその位置にあって当然という感じだ。
 そしてある夜、夢を見た。石が割れ、中から白い布を着た少女が出て来たのだ。孫悟空のように。前田はそれを石姫と名付けた。
 そこで目を覚ますが、まだ夜中だった。
 前田は書斎に行き、電気を付けた。そして机の上にある卵石を見た。そのままの姿だ。割れていない。
 手にして調べたが特に変化はない。
 ただ少しだけ温かかった。
 
   了

 


2013年4月28日

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