小説 川崎サイト

 

怖さ

川崎ゆきお


「恐ろしいものは内から来るか、外から来るか」
「恐怖の話ですか」
「得たいが知れないから、恐ろしい。これも一つのルールだ」
「一つですか」
「他にもあるかもしれんからのう」
「確かに訳の分からないものは怖いですねえ」
「動きが読めんからだろうなあ」
「情報不足ということでしょうか」
「まあ、分かっても怖いかもしれん。だから、得体が知れても、まだ怖い。ただ、安心して恐がれるかもしれんがな」
「怖いのに安心ですか」
「全く分からんものよりも怖くはない」
「でも、恐がり様は人によって違うのではありませんか」
「それはある。だから、私の言っているのは、その一つだ」
「幾つあるんでしょうねえ」
「分からん」
「怖いことが怖いというのもあるでしょ」
「普通じゃないのかな」
「そうですねえ」
「次は恐怖は内から来るか外から来るかだ」
「内からって、一人で勝手に恐がっていることですか」
「勝手ではない。やはり理由がある。内側もある意味外側から仕入れてきたものだ。食材や調味料のようなものでな。料理方法もそうかもしれん」
「その喩え、余計に分かりにくいです。それにある意味とか、一つのとかは、逃げ腰ですよ。体の中のことも外側ですか」
「今は、その説明ではない。内からの恐怖は想像するからだろう。頭の中以外は外側だ。脳みそではないぞ。意識や感覚だ。これが内側だ」
「はい」
「想像の方が怖い。どんどん膨らむからな。そして、自分が一番怖いものばかりを注目する。想像する。そういうことだ」
「でも、内からも外からも、両方とも同じようなものじゃないのですか。自分の内も外のように感じることがあります。どれが内なのか、曖昧な気が」
「まあ、思い考える頭は一つだからな。ただ、多少は切り替えておるんだろう」
「切り替える?」
「怖いことを思っているときも、それは思いすぎ、考えすぎだという頭も働く」
「そうですねえ」
「だから、内と外とを厳密に分けんほうがいいのかもしれんなあ」
「要するに怖さは曖昧なのですか」
「闇は怖いが、照らすのも怖い」
「正体を見たくないこともありますねえ」
「それなら闇のままのほうがよいかもしれん」
「なるほど」
「分かったか」
「いえ、まだ闇のままです」
 
   了


 


2013年6月13日

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