小説 川崎サイト

 

穴の空いた一週間

川崎ゆきお


 自宅を個人オフィスとし、日々似たようなことをやっている田村だが、一週間ほど同業者に仕事を頼まれ、手伝いに行くようになった。通勤を想定していないため、駅までかなりある。
 それで一週間ほどは勤め人のような生活を送った。
 それまでは朝起きてから夜寝るまで、自分のペースで暮らしていた。立ち回り先も決まっており、その順序も決まっている。コンビニやスーパー、本屋に喫茶店や定食屋、たまにドラッグストアや商店街などにも立ち寄る。この寄り先が田村の世界のようなものになっていた。ほぼ毎日そこに顔を出している。また、散歩コースもそうだし、自転車で走る道筋もそうだ。
 それは凡々としたもので、特に刺激はない。穏やかな日常風景なのだ。
 一週間ほどそれが出来なくなり、自分の世界が途切れたように感じた。
 手伝い仕事はようやく終わり、元の日常に戻り、いつもの立ち回り先へ行けるようになったのだが、どうも様子がおかしい。
 一週間ほど留守にしている間に、雰囲気が違っている。これが十年も二十年も経過しておれば別だが、たったの一週間だ。
 当然一週間に一度ほどしか行かない通りもある。この場合、間隔は同じだ。それなのに様子が違う。これも特に大きな変化はないのだが、いつもの店先や、いつもの店員が、普段とは違うような気がする。
 立ち回り先の風景が変わったわけではない。よく見るとそれなりに日々変化はしているはずなのだが、じんわりとそれを認識し、更新し続けている。だからあまり気付かない。一週間のスパンは長くはないが、一日よりも長い。七倍だ。だから、七倍速の変化を一度に見てしまったためだろうか。ただし、本当に変化のないものもある。
 これは、そこだけを抜き出して見れば同じだが、立ち回り先全体の流れから見ると、変わっていないことが逆に妙に思えたりする。
 手伝い仕事へ行く前、コンビニに新人が入っていた。一週間後、その店員は店に慣れ親しんだためか、表情や動きが違う。確かにこれは具体的だ。入って一週間立てば、それなりに変化するだろう。
 それらは重要なことではないのだが、今の田村を形作っている何かなのだ。
 そして、さらに一週間経過すると、穴の空いた一週間分は、何となく埋まった。
 
   了



2013年6月23日

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