小説 川崎サイト

 

ウラガミ様

川崎ゆきお


「探したら出てきたよ。捨ててなかったんだ」
「それは復活させないとね」
 それを探していた三村は都心からのUターン組で、話し相手は故郷の旧友。どちらも旧家だ。
「蔵の一番奥に突っ込まれていたよ。板が何枚も出てきた。ひとまとめにしてね。風呂なんかの焚き付け用の薪のようにね」
「うちのと同じものかなあ」
「そうだと思う。組み立てるのに半日かかったよ。欠けてるものがあるかもしれないけど」
 組み立てたのは浅い家のようなものだ。門を開けると、すぐに板一枚で、裏に出てしまいそうな神棚だった。
「奥の板に何か張ってなかったかい」
「剥がしたあとがある。きっと捨てるときに余計なものを外したんだと思う。神様の名前なんかが書かれていたんだろ。だから、さすがにそのままでは捨てられなかったんだろうなあ」
「うちもそうだよ。神様を捨てることになるからね」
 二人はもう中年を超えているが、子供時代、その神棚があったことをかすかに記憶している。その頃はもう家の者も、その神様を大事にしなくなったのか、置物のようになっていた。
 その時期は二人とも共通しているようで、この地域での流行廃りと関係しているのだろう。それほど長い期間ではないと思われる。
「これがウラガミ様だったんだ」
 その言葉は、流行らなくなってから、禁句のようになり、家でも耳にすることはなくなっていた。三村は二三度、その言葉を聞いたことがある。
「あとは、趣味だね」三村が言う。
「そうそう、これは今から買いに行っても売っていない。通販で調べたんだが、色々な神棚が売られているんだが、古いのは珍しいよ。それに何処で作ったのか分からない。それは知らないほうがいいんだ。蔵とか物置から出て来た、という感じでね」
「それで、どうするんだ」三村が聞く。
「どうもしないさ。君の言うように、もう趣味なんだなあ」
「何に効くんだろう。ウラガミ様は」
「表の神様では叶わないようなことが叶うんじゃないかな」
「願ってはいけないことを願うとか」
「まあ、そうだろうけど」
「どうして、僕の家にもあるんだろう」
「売りに来たんだよ。流行らせようとした」
「誰が」
「今となっては、分からないなあ。神棚屋かな」
「じゃ、どうして辞めたんだろう」
「ここの神社にばれたからさ。聞いた話だけどね」
「神社って、村のあの神様かい」
「そうそう、氏神様」
「神通力より、地元の神様から嫌われるのが怖かったんだと思う」
 三村はその後、組み立てた小さな家のようなものを本棚の上に置いてみたが、特に何かを願うわけでもなく、そのまま放置してしまった。
 もっと凄いものだと期待していたのだが、神秘的なイメージが湧いてこなかった。
 きっとただの板きれ状態を見てしまったためだろう。
 
   了




2013年6月29日

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