小説 川崎サイト

 

炎天祭り

川崎ゆきお


 炎天下、多くの老人が歩いている。徒歩もいれば自転車もいる。服装はカジュアル。夏向けに、少しでも涼しくなるような物を選んでいるようだ。
 平日の日中、うろうろしているのは年寄りが多い。ずっと夏休みのような隠居さん達だ。外に出ているが、特に用事はない。
 どの老人も、この炎天下なので、熱中症でいつ倒れてもおかしくはない。この時間帯、外に出ているのは精鋭部隊だ。気合いが入っていないと、炎天下歩こうとは思わないだろう。用事があったとしても、もう少し時間帯を選ぶか、車などを使うはずだ。
 中には自分が精鋭部隊だとは思っていない年寄りもいる。田中という老人は、体も弱く、体力もない。しかし不思議と炎天下、歩いている。
 彼は日陰を選びながら、毎日通っている。それなりに遠い場所にある喫茶店へ行く。喫茶店なら、もっと近くにある。そこではなく遠い場所だ。
 当然健康維持のための「歩き」ではない。逆にこんな炎天下運動すると健康に悪いだろう。
 喫茶店は商業施設にある。そこまでは炎天下だが、そこに入ると涼しい。冷房が効いているのだ。そこへ辿り着くまで暑さに耐え、涼しい場所でほっとする。これがいいようだ。
 そういう負荷は真夏と真冬程度で、あとはそれほどこたえない。普通に歩き、普通に帰ってくる。だから、真冬と真夏はイベントのようなもので、一番辛い時期だ。冬の陣と夏の陣。真夏祭りと真冬祭りなのだ。つまり、一人でお祭りをやっている。
 さて、その日も気温が高く、焼け付くような暑さ。日陰を選んでいるのだが、それが途切れたときは非常に苦しくなる。それに耐え、今日も喫茶店でホットコーヒーを飲んでいる。
 その前に飲むお冷やの一口は命水のように大事だ。生きた心地がする。そして冷房のおかげで、火照った体が元に戻る。このときもほっとする。
 その年の夏は、まだ終わっていない。炎天下はまだまだ続く。それに何処まで耐えられるだろうか。そして越せるのだろうか。これが田中老人の目的のようなものだ。
 商業施設から出ると、また暑い。今日のイベントはまだ終わっていない。無事に戻れるか、帰りの炎天下がまだ続いている。
 
   了



2013年7月8日

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