小説 川崎サイト

 

雨雲読神社

川崎ゆきお


 今は住宅地で、何丁目何番地になっているが、昔は里山だった。その斜面に今も残っている神社がある。外からこの町に来た人には関係のない場所だが、三河は散歩中、それを発見した。
 三河はこの町に住みだしてからしばらく経つが、こんな神社があるのを初めて知った。これは町内散策の楽しみの一つだ。思わぬものを見つけることで、楽しめる。
 神社への入り口は分かりにくい枝道にあり、私有地もしくは私道、つまり人の家の庭先に入り込むようなものだ。この辺りだけは昔からの家がある。ただ、もう家はほとんど建て替えられ、住宅地の家並みとそれほど変わらない。
 曲がりくねった路地、余地の向こう側に神社がぽつりとある。鳥居跡もある。
 神社の名前は雨雲読神社。聞いたことがない。この神社とは別に、八幡様がある。農村時代の氏神様だろう。
「ようお参りで」
 三河が社殿の中を覗いていると、後ろから声をかけられた。
「雨雲読神社って、何ですか」
「雨雲さんだよ」
「雨雲を読む。それは天気の神様ですか」
「さあ、それは分からん」
「月読ってのはありますねえ」
「わしは、よう分からんが」
「あなたはどなたですか」
「ここは、わしんところの地所じゃ」
「ああ、地主さんですか」
「ここは庭じゃ。ちょっと荒れておるがな」
「雲と関係する神様なんでしょうねえ」
「きっとそうなんだろうが、よう分からん」
「誰か、調べに来ませんでしたか」
「何度か来たことがあるが、よう分からんらしい」
「なるほど。謎の神社ですね」
「まあ、誰もお参りに来んから、なくてもいいようなものじゃ」
「はい、お邪魔しました」
 老人は三村の帰る姿をじっと見ている。
 三村が振り返ると、さっと横を向いた。
 その後、三村はいろいろと調べたり、近くの人に聞いたが、誰もよく知らないらしい。
 地図で調べたが、神社のマークは付いていないし、神社名も気されていない。
 世の中にはそういう神社もあるのだと思うしかない。そして三村は二度とそこには立ち入らなかった。
 
   了

 

 


2013年7月31日

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