小説 川崎サイト





川崎ゆきお



「自分の殻を破らないとね、いけないんじゃないかな。山田君の場合」
 プロジェクトリーダーの桶谷がいきなり言う。
「はい」
 急に言われた山田は適当な返事を返した。
「このプロジェクトは半年続くんだ。一緒にやる仲間なんだからさ、もう少し打ち解けてもいいと思うよ。そのほうがスムーズに仕事も進むしね」
「それは自然にそうなって行くと思いますが」
「そうなってないから言ってるんだよね」
「僕は十分打ち解けていると思いますが」
「君は殻が分厚いんだ」
「はあ」
「だから、その殻を脱いで、打ち解けて欲しいんだ」
「だから、それは自然に」
「君の自然は、殻を着たままなんだな。こう言わないと君の自然さでは脱がないままで終わってしまうと思うんだ」
「それも仕事なんですか」
「うん、仕事に係わってくるからね。このプロジェクトはチームワークが大事なんだ。能率が全然違うからね」
「殻って、何でしょう?」
 桶谷はその質問こそが殻を守るための発言だと受け取った。
「まあ、マイペースでやらないで欲しいってことかな」
「それはチーフの注文ですか」
「注文?」
「ああ、つまり希望ですか」
「そういうことになるけど、それは君のためでもあるんだな」
「もう少し具体的に言ってもらえませんか。至らないところは注意しますから」
「だから、そういうことを言うその態度を言ってるんだよ」
「申し訳ありません。以後気をつけます」
 桶谷は山田が分かった上でそんな言い方をしていると受け取った。
「いつも、そうなの?」
「どの部分がですか?」
「いや、だからさ、いつもそんな態度なの」
「相手によって違います」
「じゃあ、相手によって打ち解けたりするわけ」
「子供とか、友達とかです。相手は」
「君は察しがいいねえ。僕に関しては打ち解けないとは言えないからでしょ。誰だって親しい相手や油断してもいい相手ならリラックスして打ち解けるものだよ。僕が要求しているのは仕事仲間のことなんだよ。そこで自分を出す人間と出さない人間がいる。君は出さない人間なんだ。だから、出せるように自分の殻を破りなさいって言ってるのよ」
「チーフは僕を揺さぶっているのですね。無理に」
「何度も言うけど、そういう態度がね」
「以後気をつけます」
 山田は殻を破らないといけないのは、この桶谷チーフではないかと思った。
 
   了
 
 



          2006年10月23日
 

 

 

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