小説 川崎サイト

 

狭い路地

川崎ゆきお


 高橋は外に出たとき、怪しいものを探している。しかし、そうそう見つかるものではない。また、年々いかがわしいものは減りつつある。町並みはよく整理され、古いもの、無駄なもの、ややこしいものは減っている。
 探しても見つからない場合、捏造する。これはあらぬ想像をするだけのことで、違反行為ではない。なぜなら、高橋一人だけの問題なので、自分に対して嘘を付いているだけなので、外には出ない。外とは誰かに話したりはしないということだ。
「君も探索中ですか」
 高橋はドキリとした。非常に狭い路地の前だ。入っていいのかどうかと迷っているとき、声をかけられた。
 高橋と同じようなチェック柄のシャツに丸っぽい帽子。袈裟懸けにしたショルダーバッグ。
「その路地でしょ」
「あなたは?」
「私も入るかどうか迷っているんですよ。よくこの前を通るのですがね。少し狭すぎるんです。地元の人でも通らないと思いますよ。おそらく家の裏手が背中合わせになっているのだと思います。だから、勝手口でしょうなあ。覗いてみれば分かりますが、突き当たりがありますねえ」
「はい、板塀ですね」
「問題は、あの板塀の左右です。道が左右にあるかどうか。あったとしても、そこもまた行き止まりというか、もう人の家の庭だったりすることがあります。また、狭い通路があっとしても、体を横にしないと通れないほど狭い」
「入ったのですか」
「想像です」
「あなたは、この手のことが好きなのですか」
「きっと、君と同じ趣味だと思います。なぜなら、何度か君を見かけています」
 つまり、高橋は怪しいものを見ているところを、見られていたのだ。
「まあ、この町内では、この場所が最深層部でしょうなあ」
「僕もそう思います」
「そうでしょ。ボスキャラはこの奥にいますよ」
「しかし、突き当たりの家でお婆さんが昼寝をしているだけかもしれませんよ」
「それがボスでしょ。油断出来ません」
「それはいい。可笑しいです」
「それよりも、この細い路地、ここを無事に通過出来るかどうかが心配です。きっと伏兵がいます。いきなり槍が飛び出して来そうです。最深層部より、その途中が実は危険なのです」
「入ってみれば分かると思うのですが」
「そんなことをすると、終わってしまいますよ。それにこの細い路地、いかにも何かありそうでしょ。これは構造トラップかしれません。奥にはボスはいない」
「ほう」
「まあ、私はここに来る度に、見ているだけです。まだまだ情報が足りない」
 最初から、そんなボス戦の情報などないのだが。
「私はまだ踏み切れませんねえ。もう少し待ちます。経験値が溜まるまで」
 と言いながら、その男は去っていった。
 高橋は路地の前で、入るか入るまいか……少し考えた。やはりプレッシャーがある。本当にトラップがありそうな気もする。左右は家の壁や塀だ。また、勝手口や裏窓も見える。
 高橋はあの男に倣い、まだ手を、いやこの場合、足を出さないことにした。
 
   了



2013年9月18日

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