小説 川崎サイト

 

道の流れ

川崎ゆきお


 箸の流れが変わるように道の流れも変わる。
 平田がそう感じたのは、行きつけの場所が変わったためだ。箸の流れとは食べるものの変化で、今まで好きだった食べ物に対し、箸が出しにくくなったりする。箸を使わないパンなどは別だが、そういう道具のことではない。
 平田は昼頃喫茶店へ行く。もう仕事はしていないので、すべてが自由時間のようなもの。だから、その喫茶店へは何時に行ってもかまわないのだが、最近朝に行くようになった。そこまでの道は同じだが、それ以降が違ってきた。いつもなら喫茶店を出て、近くの百均やスーパーに寄る。自炊しているため、食材が必要なのだ。
 ところが、朝まだ早いためか開いていない。その関係で喫茶店から向こう側へと続く道へは最近行っていない。これで道の流れが変わった。
 道だけではなく、その沿道の風景を見る機会もなくなった。別にそれを見るために、スーパーや百均へ行っていたわけではないが、毎日見ていただけに、少しだけ気になる。
 その二つの店へは開いてから行けばいいのだが、実は家から遠い。スーパーは近くにもある。喫茶店のついでだから、足を伸ばせた。
 そして今朝も喫茶店から出たとき、その沿道が気になった。用事がないので、行く必要はない。また沿道風景も普通の住宅地のそれなので、特に見るべきものはない。大きな変化があったとしても、ただの通行人の平田にとって、関わりのあることではない。
 その代わりではないが、近所のスーパーへ行ったとき、そこから足を延ばし、公園へ回るようになった。この近所のスーパーは小さく、品揃えもよくないので、あまり行かなかったのだ。喫茶店の向こう側にあるスーパーは大きく、そして安い。しかし、道の流れが変わったので、気に入らなくても近所のスーパーへ通うようになった。すると、その沿道が、まるで自分の領地のように思えてきた。それをさらに拡げるため、公園まで足を延ばした。
 ただ、この公園、特に気に入っているわけではない。そこで一休みすることもなく、素通りだ。
 箸の流れも変わってきた。スーパーを代えたため、買うものが少しだけ違う。だから食べるものがほんの少しだけ違う。今まで食べようとは思わなかった納豆が、特価だったので買い、その後も食べるようになった。
 この新パターンで、あの喫茶店から向こう側のスーパーや百均が遠いものになり、領内から領外、他国の地となった。
 またいつか道の流れは変わるのだろう。別に平田は変えようとして変えているわけではなく、何かと連動して、そうなるようだ。
 
   了



2013年9月25日

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