小説 川崎サイト

 

妖しの館

川崎ゆきお


 長く続いた妖しげな店も、更地になると、何もかもなくなる。
 高橋はカウンター席から見える奥の棚が気色悪かった。食器などが置かれているのだが、妙な仮面や、珍獣の剥製、これは合成されたケダモノだろう。作り物なのだが、そういう形を思い付いた人の感覚が怖い。さらにそれを飾っている人も。
 マスターは骸骨のように痩せており、顎髭を雑草のように長く伸ばしていた。
 たまに見かける占い師の婆さんは深夜にならないと出現しないらしい。魔女のような服装をしており、白昼歩くのは無理だろう。
 店の奥に豪華なソファーが置かれ、その周囲にはアフリカの悪魔が並んでいる。薄べったな板だが、墓場にある卒塔婆に似ていた。
 この妖しげな店がどうやって運営されていたのかは分からない。高橋も月に一度行くかどうかなので、常連客とは言えない。だから詳しいことは知らない。
 客層もユニークで、店と同じ傾向だ。つまり客も妖しい。ただ、他の場所で見れば普通かもしれない。背景となる場が、普通の人さえ妖しく見せてしまうのだ。それは、どんな人間でも、その人を猿だと思って見ていると、どんどん猿になっていく。こういう猿がいそうだと思うのと同じだ。
 高橋は、この妖しさが好きなのだが、月に一度程度でないと濃すぎる。隔月でもいい。もし毎晩来ているようならそれほど濃くは感じず、妖しさもなくなるかもしれない。だから、程良い間隔がいい。
 そして、ある夜、行ってみると、店のドアが閉まっていた。定休日がいつなのかは分からないので、偶然休みの日に来たのだろう。その夜、高橋は妖しさが切れかかっていたので、補給のためだ。ここ数週間、不思議なもの、妙なものを見る機会がなかった。
 そして、数日後、また来てみたのだが、やはり休みだ。どうやら潰れたのかもしれない。
 高橋は二週間後、また来てみた。すると、黒い闇があった。建物がないのだ。更地になっている。それを見たとき、その闇から悪い風が吹いてきたように感じてしまい、帰ってから塩をまいた。
 さらに一週間後、今度は昼間に来た。
 敷地はそのままだが、かなり狭い場所だったことが分かる。カウンターがあったところには当然何もない。地面には砂利が敷かれている。駐車場にでもなるのだろう。
 そして、同じ場所でありながら、空間が全く違う。そこにあった妖しさが一切合切吹き消されている。あの妖しさは物に宿っていたのだ。
 今は日向臭い場所になり、砂利の下からはもう早くも雑草が葉を出していた。
 
   了 
 



2013年9月26日

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