小説 川崎サイト

 

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川崎ゆきお


 想像したものと、実際のものとは違うことがある。実物や、その現実を直接見ていないのだから、当然だろう。
 ただ、想像していたものの方がよく、実際はそれより劣ることがある。ではいったい何を想像していたのだろうか。
「誇大妄想じゃないのかね」
「いえ、過小妄想することもあります」
「過小妄想?」
「過小評価でしょうか。小さい目、少ない目に想像することがあります。これは妄想ではなく、普通だと思うのですが」
「まあ、実際のものを見ていないのだから、多少は食い違うだろうが、それはある範囲内だ。それを越えると妄想になる」
「その境界線は何でしょう」
「期待とか、不安とかの空気が膨らませたり萎めさせたりするのだろうねえ」
「先生にもありますか」
「当然だよ。テレビで見ていた観光地の映像と、実際とは違うだろ。陸上競技場へ行ってみると、意外と小さくて狭い」
「ああ、それはレンズのせいですよね」
「いちいち広角か標準か望遠かと思いながら見ていないからね。だが印象だけは残る」
「観光地なんて、いいところだけを切り撮ってますねえ。あれを見ていると、町全体があんな感じかと思ってしまいます。でも、それにはもう騙されませんが」
「商品もそうだね。ネットで写真だけを見て、買ったものが、思っていた感じではない。確かに重さや色や材質や寸法も知っているのだがね。しかし、十センチのものが二十センチになっているわけじゃない。ある範囲内での話だ」
「じゃ、問題は感じですか」
「商品なら、誤差はそれほどないだろうが、事柄に関しては誤解が多く出るだろうねえ」
「たとえば」
「履歴書で見た人と、実際に会うと、全く違う」
「写真も貼られていたのでしょ」
「悪い写真は選ばないだろう。確かにその人の一面ではあるが、そういう顔になることは一度もなかったねえ。いったいどうやって写したのかと思うほどだよ」
「自分と世間との食い違いもありますねえ」
「それは、君が思っている世間と実際の世間とが違うためだろうねえ」
「僕が思っている世間ですか。それって一般的な世間だと思うのですが」
「だから、それは君が思っているところの一般的なものだ」
「ああ、そうですねえ。普通に見ているようでも、結構フィルターをかけてますねえ」
「だからイメージが大切だ」
「そのイメージが一番曖昧なんでしょ」
「だからツボにハマると決まる」
「怖いものですねえ。イメージって」
「まあ、人はイメージなしでは生きていけないからね」
「はい」
「普通のイメージが妄想になるのはすぐだ。特に一つのことをじっと見つめていると、危ないからね」
「あらぬものが沸き出すのですね」
「まあ、それを楽しみとして沸かすのなら、いいんだけど」
「そうですねえ。どうでもいいことなら、問題はないんだ」
「ただ、悪い癖が付くので、気をつけるように」
「はい」
 
   了





2013年10月5日

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