小説 川崎サイト



踏み倒し

川崎ゆきお



「ほとほと困り果て、何度も何度も自殺しようと決心したほどです」
「そうなんですか。それは苦しかったでしょう」
「取り立てが厳しく、ドアの前で大声で……」
「近所にも聞こえるように怒鳴り立てたのでしょうね」
「会社にまで来るようになり、もはやこれまでかと思い、線路にでも飛び込んで終わらせようと、この近くまで来たところ、ここを見つけたのです。こんなことってあるんですねえ。地獄に仏とはこのことだ。借金地獄の相談所なんて、聞いたことはありましたが、何処にあるのか調べる気力もなくてね」
「あなたが借りられた相手は不法な高利貸で、不当な取引に当たるため、返済の必要はありませんよ」
「それも噂では聞いていましたが、本当なんですね」
「どうして借りられたのですか」
「お金がなくて」
「お勤めなんでしょ」
「それが……」
「話してもらえませんか?」
「それは……その」
「どうしました?」
「パチスロで」
「そうですか」
「突っ込み過ぎまして、取り返そうと元手を借りたばっかりに……その元手もすってしまい、それから利息に利息が重なってとんでもない金額になってしまいました」
「よくある話ですよ」
「そうなんだ」
「それでいくら返済しましたか?」
「一円も」
「一円も返済しなかったのですね」
「返済するお金などありませんよ」
「それなら取り立てもエスカレートするはずです」
「はい、精神的に参ってしまいましてね、だから自殺を」
「その必要はないですよ。払わなくてもいいのです。法外な利息ですからね」
「それで、最初、いくら借りられたのですか」
「いくらでも用立てると言われたので百万ほど」
「はあ。パチスロの元手ってそんなにいるのですか」
「手元の現金は多ければ多いほどいいのです」
「百万は返す自信はありましたが、こんなに利息が増えるとは思わなかったです」
「すべて払わなくてもいいですよ」
「では早速和解用の手続きをお願いします」
「それは弁護士さんに頼んでください。ここは相談所ですから」
「えっ? わたし、高い相談料を前払いしましたよ」
「だから相談に乗り、解決策をお話ししましたでしょ」
「はあ……」
 
   了
 

 


          2006年11月7日
 

 

 

小説 川崎サイト