小説 川崎サイト

 

伝説の竜

川崎ゆきお


 立花は自宅で仕事をしている。そのため籠もりがちになるため、昼食後は必ず自転車で散歩に出る。籠もらないといけないほど忙しければいいのだが、最近暇になった。仕事もないのに部屋でじっと居ると息が詰まるので、気晴らしも兼ねている。
 しかし、散歩コースも籠もりがちになっている。ずっと移動しているのだから、籠もるわけではないが、気が付けば同じコースを走っている。その道に籠もっているようなものだ。
 考え事をしている場合、それに気付かない。風景など見ていない。だから、どのコースを走るのかと、考えるようなこともない。不思議と昨日と同じコースを走っているのだが、そのことにも気付かない。
 ある日、籠もりがちな道をどうにかしたいと思い、少し違う方角へ走ってみた。ただ、この一帯はほぼ走り倒しているので、久しぶりに通る程度だ。
「竜か」
 立花はドラゴンを見た。
 この前までゲームのイラストを画いており、竜が出てくるのだ。それで、竜が浮かび上がったのだろう。その竜は神社の手洗い場にいた。そこに神社があることは既に知っているし、そういう柄杓のある手洗い場も知っている。しかし、その日は竜をまじまじと見てしまった。
 雨ざらしのためか、水道水の影響か、竜は錆びており、かなり老いている。出来たときは黒龍だったに違いない。今は茶色で表情もくすんでしまっている。迫力を失ったが目を見開き、口を大きく開けている。その大口の奥に管があり、そこから水が出る。
 この神社はよくある村の氏神様で、竜を祭っているわけではない。竜神信仰というのがある。水神様のことだろうか。竜は雲を呼び、雨を降らせる。今は水道の水を口から簡単に出している。竜は蛇でもある。だから水道の蛇口も、それに関係するのだろうか。
 立花は竜が見ている方角を見た。北を向いている。竜は北を見ていることになる。立花も北を見た。田圃が少しあり、あとは住宅地だ。さらにその向こうに、こんもりとした固まりがある。木が見える。
 土地勘のある立花は、隣村の神社だとすぐに分かった。そして、そちらへと向かう。
 立花は考えた。向こうにも竜がいたような気がする。そちらは屋根付きの手洗い場だったはず。そして南を向いているのではないか。つまり、向かい合っている。
 立花は散歩コースのネタを見つけた。数分後にはもう隣村の神社の鳥居を潜っていた。
 そして、手洗い場の竜を見付け、方角を見た。北を向いていた。だから、向かい合ってはいなかった。
 それでは反応しないだろう。二匹の竜が向かい合い、何かをスパークさせ、そこに伝説の竜が出てこないといけない。
 明日は別の竜を探すことだ。立花はこれで一つ楽しみが増えた。ドラクエが始まったのだから。
 
   了
 



2013年10月17日

小説 川崎サイト