小説 川崎サイト

 

ある論法

川崎ゆきお


「寒いねえ」
「冬ですから」
「明日も寒いだろうか」
「寒波が来ているから、それが去るまで、まだ寒いですよ」
「じゃ、緩むか」
「去ると緩むかと思いますよ。ところで高田さん……」
「何かね」
「高田さんは天気のことばかり言ってますが」
「あ、誰でも言うだろ。寒い日は寒いって、まあ、挨拶代わりだよ」
「いや、高田さんと世間話を長くしていますが、あまり社会的な話はしませんねえ」
「そうかなあ」
「海外で戦争や紛争があったり、色々あるでしょ」
「うちは家庭で紛争中だな」
「ああ、それは大変だ」
「だからじゃないけど、海の向こうの知らないところの紛争まで抱え込めない」
「でも、ニュースなんかで、大きく取り上げられていますよ」
「世界中のことを気にし出すと、きりがないだろう」
「まあ、そうなんですが、社会常識として」
「ニュースにはならないけど、もっと色々なことが世界中で起こっていると思うよ。それを一つ一つチェックし、心配したり、気にかけていたのでは忙しくて仕方がないじゃないか。それに、うちは家庭紛争中でね。先ずはそこから解決しないとね」
「国内でも色々と大きな災害が起こっていますが、それにも高田さんはあまり触れないですねえ」
「そうかなあ、大変だなあと、言ってるけど」
「それだけですか」
「何が」
「だから、募金をしたり、手伝いに行ったり。困っている人を助けるような」
「困っている人なら近所にいくらでもいますよ」
「ああ、分かります。そういう論法」
「そんな論法があるのか」
「遠くて薄い縁の人達に対しての方が、色々と善意を施したいというような感じです。近いと駄目なんですよね。これが」
「そうだね。他人に優しくするように、家族にも優しくしてもらいたいよ」
「それは高田さんのお宅での、家庭の事情ですねえ。それも論法なんですよ」
「え、どんな論法だい」
「先ずは自分のことを、という論法です」
「自分だけかい」
「家族もです」
「家族だけかい」
「近隣に対してもです」
「近隣だけかい。まあ、それでも随分と広いけどねえ」
「要するに、期限限定の善意の行為はストレス解消になるんですよ。そういう論法です」
「ストレスねえ」
「違う論法もありますよ。まあ、人を助けたりするのは、気持ちがいいんです」
「ああ、それはあるねえ」
「いい人になれます」
「それはどんな論法だい」
「色々な論法の中の一つです」
「そんなに沢山あるの。それじゃ、何とでも言えるねえ」
「個人が世間とどう関わっていくかの論法ですよ」
「最低限でいいんじゃないかい」
「だから、それも論法なんです」
「便利だね。論法って」
「高田さんは、見て見ぬ振りをする論法です。だから、色々なことが社会で起こっていても、見ない振りをする。つまり、ないものとして過ごす。そういうことです」
「きつい論法だね」
「ああ、それはパターンでしてね。それで行動パターンが分かるんですよ」
「嫌な話だねえ」
「それに向かい合うわけですよ」
「ああ、しんどいねえ」
「そうですか」
「だから、天気の話でいいんじゃないか。ややこしい話をするともめるよ。それに大した知識も持っていないんだから」
「まあ、そうなんですが」
「そうだろ」
「論じるともめる。それが嫌なんだよね。私は」
「今も」
「もめてますよ」
「あ、そうですか」
「君はもっと大人だと思ったけど、違っていたか」
「こういう話、青臭いですか」
「いやいや、私が悪かったのかもしれない」
「はい」
「天気以外の話をすればいいんだろ。たまには、政治や社会の動きについても挟むよ」
「あ、はい」
「それだと、誤魔化せるだろう」
「そういう意味では」
「私が油断していた。ガードが甘かったようだ」
 その後、この二人は出合っても口をきかなくなった。

   了



2013年11月29日

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