小説 川崎サイト



狐塚

川崎ゆきお



 深夜の路上で何かが光っている。真っ赤な赤だ。血のように赤い。呼吸でもしているように規則正しい光り方だ。
 周囲の石も赤く焼けたように照らされている。
 昔の農道と最近の大きな道路とが交差する場所だ。
 この時間になると信号は赤の点滅に変わる。赤信号の光が路上のガラスの破片を照らしているのだ。
 その信号を渡り、旧農道を進むと狐塚という妙な名前の町名となる。
 農村時代の面影は住宅地の中に埋まっているが、それ用に作られた道路とは別に、旧農道が入り組んで走っている。
 そして旧村内に入ると、旧村道が迷路のように走っている。住宅地の私道と混ざり合っているのだが、旧村道は細くくねりながら伸び、行き止まりにはならない。
 この住宅地に引っ越してきた人々は必ず迷う。自分の家が何処にあるのが分からなくなり、探しているうちにとんでもない場所に出てしまう。気が付けば別の町を歩いていたりする。
 この旧村落と同じような場所は周囲にもあり、似たような町並みになっているからだ。
 狐塚は村名ではない。村が出来る前からあった地名だ。
 村の神社に稲荷大明神の祠はあるが、隣の神社にもあるような平凡なもので、狐塚の地名とは関係がないようだ。
 問題は塚である。狐の塚がこの周辺に埋まっているのだろう。
 しかし、誰も狐塚の跡を知らない。元農家の人も、塚の伝承を知らない。
 江戸時代の古地図があり、水争いのときに書かれたものだが、墨ではっきりとキツネツカと記されている。だが村名がないので、それ以降に出来た新田の村かもしれない。
 もう何年も住んでいる人でも迷うらしい。同じように迷った人が数人、同じ場所に集まってしまうこともある。
 そこが狐塚のあった場所ではないかと思えるのだが、それは誰も口にしない。
 また迷いやすいことも禁句となっている。
 狐に化かされる話は多いが、未だにそんなことが起こるとは住民は思っていない。
 迷うのは道が入り組んでいるためだと理解している。
 
   了
 
 



          2006年11月14日
 

 

 

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