小説 川崎サイト

 

めでたし

川崎ゆきお


 山間を走る街道。そこに枝道がある。武者は足を踏み入れる。近道なのだ。
 そこへ男が飛び出す。杖を突いた老人だ。
「この先へ行ってはなりません」
「留め男かな」
「まあ、そんなものです」
「街道を行くとよく、留め男に出合う。しかもすぐに来る。素早い。見張っておられるのかな」
「山菜採りに来ておる。偶然見付けたので、留めに入っのじゃよ」
「魔獣でも出ますか」
「おっしゃり通り」
「近道と聞いたが」
「一生かかっても辿り着けぬほどの遠回りになりますぞ」
「何がおる。退治してやろう」
「無理ですなあ」
「ほう」
「一匹や二匹じゃありませぬ。ウジャウジャおりまする」
「見たか」
「はい、少し行ったところに、ちらほら出ておるのを」
「ちらほら咲きのようなものか」
「花見ならよろしいのですがな」
「ご老人」
「はい」
「山菜採りにしては杖一つで、籠などは持ってきておらぬが」
「山菜採りは嘘です」
「ほう」
「薬草を探しておりました。孫の熱がひどいため」
「里からここまで探しにか。私は里を朝立ちし、今は昼前。かなり遠い。ここは里の裏山などとは違う」
「その薬草、この辺りまで来ないと、ありませんのじゃ」
「熱取り草か」
「はい」
「見つかったか」
「いえ」
「この辺りにあるのだろ」
「実は、この枝道の、もう少し先。そこに魔獣がおりますのでな」
「うっかり入り込めないと」
「おっしゃる通りで」
「この間道沿いにあるのだな、その薬草が」
「はい、その周辺でございます」
「どんな草だ」
「少し説明が難しい形で」
「取ってきてやろうと思ったが、それでは難儀だなあ。形が分かりにくいのでは」
「はい」
「ご老人」
「はい」
「で、どうするつもりかな」
「間道の奥まで行かなくても、この近くにも生えておるやもしれぬと思いましてな。それで、探しておるところです」
「そうか、では続けるがよかろう」
「はい。わしの用事はそれで済みますが、あなたはこの先へ行かれない方がよろしいですぞ」
「魔獣がウジャウジャいる間道なので、留めておるのだな」
「はい、留め爺ですからな」
「分かった。気をつけて入り込むことにする」
「だから、その程度のことではないので、申しておるのです」
「それほど危険か」
「分かっておるから留めておるのです」
「なるほど」
 武者は街道に戻った。
「忠告を聞こう。まあ、急ぐ旅だが、命には代えられんからなあ」
「はい、それがよろしいかと」
 その後、老人は薬草を発見し、孫に飲ませて熱を下げることが出来た。
 武者は本街道を時間をかけて歩き、無事里へ到着した。
 めでたし、めでたし……だ。
 
   了



2013年12月2日

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