小説 川崎サイト

 

変化クラブ

川崎ゆきお


「何か刺激が欲しかったのです。変化が欲しかったのです」
 変化クラブと呼ばれる場所がある。その場所は変化し、同じ場所にはない。つまり、毎回集まる場所が違うのだ。しかし、毎回毎回場所を変えようとしても、いい場所が見つからない場合は別だ。
「変化クラブなのに、あまり変化していませんが」
 先ほどから一人の会員がぼやいている。細かい話だ。
「三ヶ月前と同じ場所ですよ」
「そうだったかね、そういえばそうだけど、三ヶ月も経っていると、この場所も変化しているでしょ」
「いや、同じ場所にしたことが駄目なんですよ」
「三ヶ月はもう時効でしょ」
「時効」
「集まりは週に一度です。月に四回。場所探しも大変なのです。だから、三ヶ月経てば、この決まりにこだわる必要はない。もう殆どの場所、回りましたからねえ。場所がもうない」
「それよりも、最近マンネリですねえ。ネタも同じ事を繰り返しているように思えるのですが」
「かなり変えていますよ」
「僅かです」
「違いがあるでしょ。だから変化している」
「しかし、変化はしていても刺激がない」
「当然、違う刺激を探していますよ。しかし、これもネタ切れでしてねえ。大概のことはやってきましたから、そろそろです」
「では、もう潔く解散ですかな」
「そうですねえ。もう三年になりますから、そろそろかもしれません。変化も刺激もそんなにお膳立て出来ませんので」
「では、我々会員はどうすればいいのですかな」
「普通に戻られたら如何ですか」
「ずっと普通ですよ。だから刺激を求めて、この会に来ているのです」
「初めての会員なら結構ウケるのですがね。あなたのように三年前からの会員では物足りなくなるのかもしれません」
「要するに、飽きたと思えば脱会せよか」
「はい」
「私が抜けるとどうなるかね」
「さあ」
「おそらく、いつもいる人間が顔を出さないことが、変化となる。そうじゃないですかな」
「それも確かに変化ですが、それを言い出すときりがないですよ」
「分かった。私は抜ける。なぜなら、もうここには変化も刺激もない」
「はい、了解しました」
 変化や刺激は黙っていてもやって来るものだ。無理に作る必要があるあるのは余程の退屈者だろう。
 
   了



2014年1月19日

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