小説 川崎サイト

 

玉葱の産地

川崎ゆきお


 玉葱の産地として有名な場所がある。高島はスクーターツーリングで玉葱畑を通過している。こんなものを作って儲かるのだろうかと思いながらも、儲かるからこそ栽培しているのだと思い直す。
 玉葱畑の向こう側に農家が見える。玉葱農家だろうか。きっとこの地域で長く玉葱を育てている人は玉葱のような顔になっているのではないかと、妙な想像をする。豚肉を扱う人と牛肉を扱う人とでは顔が違う。しかし、職種が最初から分かっている場合に限られる。
 道路脇に店が出ている。道端にいきなり玉葱を並べているのだ。そして案の定、売り子の婆さんは玉葱顔だ。
 高島は玉葱は好きだが、狂うほど好きではない。玉葱なしで生きていけないわけでもない。安くて保存が利く野菜として重宝しているだけだ。しかし、毎日食べていると玉葱がないと寂しい。
 高島は少し重くなるが、買って帰ることにした。
 スーパーで買うより野性味がある。玉葱は裸のまま並んでおり、個数を言えば袋に詰めてくれる。一個買いも出来るが、数が多いほど一個あたりの値段が下がる。その値段表があるので、それを見て五個を買った。それ以上だと、鞄に入らない。ハンドルにぶら下げることも出来るが、バランスが悪くなる。だから、五個にした。
 さらに走って行くと、似たような露店がぽつりぽつりとある。これがスイカの産地なら、スイカが並んでいるのだろう。同じ球体だが、スイカは持ち帰りにくい。玉葱売りよりスイカ売りの人方が大顔に見えたりする。卵売りだと卵顔で小顔だ。ウズラ売りなら色が黒くさらに小顔。
 高島はややスピードを緩め、値段を見る。少しだけ安い。しかし、僅かな違いなので、後悔するほどではない。
 これはあとで高島が知ったことなのだが、買った玉葱はその土地のものではなかった。外国産だった。
 これに見事高島は引っかかったのだ。背景が玉葱畑、しかも玉葱の産地として有名な場所。売り子は玉葱顔の老婆。そこで売られているのは地元産のはずだが、違っていた。
 その露店は嘘を付いていない。産地名はひと言も言っていないし、玉葱農家の店とも断っていない。勝手に道端で売っているだけだ。
 そして、本物の産地物の玉葱は倍ほど高い。本物の直販なら高くて買わなかっただろう。
 それを聞く前に五つの玉葱を美味しく食べた。さすがに玉葱の産地ものは違うと思いながら。
 
   了

 



2014年1月28日

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