小説 川崎サイト

 

高曇り

川崎ゆきお


「今日は高曇りだねえ」
「えっ」
「空だよ」
「ああ、雲ですか」
「これだけ雲が高いところにあると、圧迫感がない」
「今日は曇りですか」
「微妙だねえ。半々だ」
「私は、この状態なら晴れていると言いますよ」
「そうかい、私は高曇りと言う」
「じゃ、曇りなのですね」
「雲のことを申してるだけよ。晴れとも曇りとも言っとらん」
「じゃ、雲の位置を僕に伝えたわけですね」
「今日の雲は高いからねえ。それが目立ったんだ。昨日の雲とは種類が違うねえ。タイプが違う。形も違う。少し太い目の飛行機雲が何本も何本も並んでいるような感じだ。あれは薄いし高いから雨にはならん。高貴な雲だ。高い位置にあるからねえ」
「飛行機が飛べば、高さが分かりますねえ」
「いや、この辺りは空港が近いのでね。そんな高い場所を飛ばない」
「たまに見ますよ。小さくなって飛んでいる。あれは高いですよ」
「ああ、そいつは特急じゃ」
「え」
「この駅には止まらん」
「飛行機は港じゃないのですか。空港って言いますよ」
「そうだね。寄らないで沖合を通過しているようなものか」
「ところで師匠、今日はどうして高曇りの話を」
「え、何が」
「ですから、わざわざ、そんな話題を」
「特に何もないが」
「何か、そこからの展開がありそうな」
「高曇りからかい」
「はい」
「何かの教えを伝えるためじゃない。見たものを見たまま言ったまでよ」
「高曇りから私は高飛車を連想します」
「知らん」
「え」
「勝手に連想すればよかろう」
「師匠の高飛車な発言をもっと聞きたいのです。もっと高いところから、高度のあるところから一気にこき下ろすような、あの迫力のある落下感のある説教を」
「今日はそんなつもりはない。雲が高い位置にあるから、高曇りと申しただけのことで、それ以上の意味はない」
「たまには、そう言う何でもない話もあるのですね」
「最近この種の話が増えた。いちいち関連付けて、物申すのが面倒になったからのう」
「そんな師匠のような感情で、高曇りを見ていると、趣があります」
「うむ、まあ、勝手に思い込めばよい。ただの雲じゃ」
「あ、はい」
 
   了




2014年2月4日

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