小説 川崎サイト

 

兎が並ぶ日

川崎ゆきお


「また忘れたなあ」
 買い物から戻った作田は呟く。
 ゴミ袋を買い忘れたのだ。ゴミの日に出す、あれだ。
 それが切れていた。それで、出たゴミはレジ袋に入れるのだが、これは応急処置で、本来ではない。小さいためだ。すぐに一杯になってしまう。それに透明でないと、ゴミとして出せない。
 レジ袋にも色々あり、透明なものもある。これは使えるが、やはり小さい。
 では何故毎回買い忘れるのだろうか。それはゴミ袋のためかもしれない。それを使っても特に楽しいことはない。あると便利なものでもない。なければ困るので買うのだ。それに捨てる物だ。
 ゴミ袋を売っているスーパーやコンビニに毎日のように作田は行っているのだが、ゴミ袋のことは頭にない。全く忘れている。そしてゴミが出たときに、ゴミ袋のことを思い出す。今度こそ買おうと。
 しかし、家を出たときはもう忘れている。ゴミ袋のことなど小さな問題のためだろう。それに面白くも何ともない。また興味もない。
 コンビニでゴミ袋だけを買うのも難儀だ。ゴミ袋だけをレジ袋に入れてもらう姿を見ただけで、もう買えない。だから、他のものと一緒に買うしかないのだが、毎回ゴミ袋のことを忘れている。
 作田は百均で大きな封筒を買ったことがある。そのとき、かなり大きなレジ袋に入れてくれた。これは許せる。しかし、ゴミ袋は駄目だ。レジ袋と似ている。そして、レジ袋があれば、ゴミ袋の代用が出来る。ただ小さいので扱いにくい。何個も塊が出来、それを出しに行くとき面倒だ。それに透明でないといけないので、ストックはない。それ以前にレジ袋はゴミとして出してしまう。
 当然ゴミ袋もゴミだ。それ自身がゴミだ。
 そこまで考えると、作田は納得出来た。つまりゴミを買いに行くようなものなのだ。
 しかし、作田の家にゴミ袋はある。ただ、これは非常に大きい。週に一度出す程度のゴミの量はしれている。それをこの大きなゴミ袋に入れるのはもったいない。あるのだが、使っていない。使ってはいけないものと最初から思っている。それに大きいので、枚数も少ない。大掃除でもしない限り、そんな大きさは必要ない。そのとき用に残しているのだ。
 では、どのタイミングでゴミ袋が買えるのだろうか。作田はそれを思い出した。やはり百均だ。百均へ何か買いに行ったときに、ゴミ袋を一緒に買う。
 そのチャンスは一週間前にあった。しかし、ゴミ袋のことは頭になかった。だが、もうこれだけゴミ袋のことを考えたのだから、次回は思い出すはず。
 さらに過去を振り返った。それによると、ゴミ袋をメインとして買いに行ったことがある。当然ゴミ袋だけではなく、台所用品のスポンジやタワシも。こちらはおまけだ。
 だから「ゴミ袋を買いに行くぞ」と思って家を出ないと買えない。
 そして、そろそろその時期で、かなり盛り上がってきている。
 つまり、ゴミ袋テンションが上がり、閾値を超えている。ここ数日が山だ。きっとゴミ袋を買うことを覚えているはずだ。
 作田はそんなことを、キッチンの床に兎のように並んでいる代用ゴミ袋のレジ袋を見つめながら思った。
 
   了





2014年2月10日

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