小説 川崎サイト



パターン

川崎ゆきお



「悪い見本、陥りやすいパターンがある。君を見ているとまさにそれだ。陳腐とはまさにそのことだ」
「あのう……」
「何かね」
「そういう言い方も陳腐なのでは」
 師匠は眉をしかめた。
「どういうことかね。説明しなさい」
「他の師匠からも、そういうことを何度も言われました。何人もの師匠が同じことを……」
「そりゃあ、言うだろ。君を見ているとね。独創性がなく、ありがちなパターンを繰り返しておる。誰が見てもそうなんだ。だから同じことを言われて来たのだよ」
「だから、それも同じフレーズを繰り返すということで、独創性とかがないのではありませんか」
 師匠は指でツンと鼻を撫でた。
「君は師匠を批判するのかね」
「そんなつもりはありません」
「じゃあ何だ……その言い草は。弟子なら弟子らしい態度があるはず」
「あのう……」
「また刃向かう気か!」
「こういうのって、師匠と弟子にはありがちな会話ではありませんか」
「つまり、君が言いたいのは、わしも陳腐な師匠だ。ありふれたパターンを繰り返す独創性のない師匠だと言いたいわけか」
「そんなつもりは」
「では、わしは君をどう指導すればよい」
「よくあるご指導で充分です。妙なことを言い出す師匠より、ステレオタイプな師匠のほうが私も安心です」
 師匠は褒められているとは感じていない。小鼻を爪でかきはじめた。
「要するにだ」
「はい」
「君には独創性というか個性がない。あるのだろうが、それが出ていない。自分のものを、自分らしきものを見付け出し、それを延ばして行けば新しいブランドとして起ち上げの許可も出せる」
「では、ヘンなことをやってみます」
「そういうことじゃない。君から生じたものを形にしないと駄目なんだよ」
「でも、僕から出てくるものは、よくある形で、それが僕にも馴染みやすいのです」
「君には才能がない」
「あのう……」
「少しキツかったかね」
「いえ、そういう結論を何度も言い渡されましたから。慣れに慣れたパターンです」
 師匠は次に何かを言おうとしたが、陳腐な言葉しか出てこないのでゴクンと生唾を飲んだ。
 
   了
 
 



          2006年12月5日
 

 

 

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