小説 川崎サイト

 

とんがった岩の風景

川崎ゆきお



「あのとんがった山というか、丘ですかな、それを右に見ながら、左側にある山塊との間を抜けますのじゃ。それは街道でしてなあ。遠くまで続いています。左側はずっと壁のような山です。山が急に果てておるところでして、そこは山道もありません。これも丘のような高さで山と言うほどではない。その山向こうも似たような小高い丘のようなものが続いています。木や草が生え、岩も突きだしております。まあ、そういうものは特に言うほどのものでも景観でもないのですがね。ただ、平地から山側に入るとき、その入り口となるとんがった丘だけは印象に残っています。いい目印ですよ。街道はその丘の下から出ています。平地部にも道はあるのでしょうが、何処を歩いてもいいような砂地なんですよ。海岸はすぐ近くです。だから、この街道は海で果てますが、そこに船着き場があります。平地の道がないのはきっととんがった丘の近くまで海水が来るかもしれないためでしょう。昔よりも海岸が拡がったのでしょうかね」
「その、とんがった丘が目印ですか」
「はい、そうです。塔のようにとんがっています。岩でしょうなあ。だから、丘じゃなく。そこは上れません」
「その街道の先は何処へ繋がっているのですか」
「内陸部にある大きな町に出ます。まあ、遠いですよ」
「なるほど」
「あの地はどうなったのか、今でも思い出します。あのとんがった丘、いや岩でしたなあ。それが見ながら街道沿いの山岳地帯に入り、そこで狩りをして戻って来る。オオカミが出るのですよね。こいつらは群れを成しておる。たまに船着き場の役人からオオカミ退治を頼まれることがありますが、これはきりがありません。ただ、オオカミの肝はお金になりましてねえ。安全のためのオオカミ狩りじゃなく、その役人達の内職なんでしょうなあ」
「海の向こうは何処ですか」
「沖まで出ません。陸地は危ないし、それに歩くのは大変だから、海岸伝いに船が出ているだけですよ。しかし、ここの船着き場にはトロイの木馬がありましてねえ。それはそれは大きなものですよ。もう半分ほど壊れていまして、それが馬に見えるかどうかは分かりませんがね」
「そのトロイの木馬は目印にならないのですか」
「なりますよ。しかし、そこを目指すと危ない。近付くとね。ここは蟹がいるのです。大きな。だから下手に目印にして、うっかり近くまで来ると、危ないのです。やはりとんがった岩を目印にするのがよろしい」
「それで、それは一体何なのですか」
「長く行っていないので、懐かしい風景です。今もそのまま残っているのかと思いますよ。あの頃、何度も何度も山と船着き場を往復した。また行ってみたいと思いますよ」
「だから、その地は」
「ああ、昔やっていたゲームですよ」
「お邪魔しました」
「はい、また、お越し」
 
   了




2014年3月13日

小説 川崎サイト