小説 川崎サイト

 

不安な演奏

川崎ゆきお



 不安な状態になっていると、その副作用が出るようだ。それで楽しいはずのものも、楽しくなくなる。ただ、何処かで気休めが必要で、不安な気を休めることも大事だ。
「そういうときはどうしています」
「僕ですか、何か気晴らしを考えますが、安心して晴れませんね。そういう不安を忘れるためにね。しかし、すぐに思い出しますよ。そして、それが覆い尽くす、覆い包む。まあそれは時間の問題ですが」
「時間とは」
「はい、その不安が長く続くと、慣れてくるのでしょうなあ。いつまでもそんな不安な気持ちでいると、体が悪いと勝手に判断してくれるようです。それで不安はそこそこ弱まります」
「その不安の要因を取ろうとはしないのですか」
「ああ、取れるものなら、すぐに取り除くなり、手当しますよ。しかし、何ともならない問題もありますしね」
「それは慢性不安ですか」
「ああ、持病のように考えれば、それでよろしいかと。そういうものだと」
「不安なときの過ごし方は」
「そんなもの、考えたことはありませんよ。不安なときは、もう不安なままでいますよ。そのうち解決していたり、良い方向へ向かう兆しが見えれば、勝ったようなものですがね」
「よく分かりました。あまりドタバタしなくてもいいと」
「いや、解決策があるのなら、動いた方がいいですよ。動いているときは、多少不安も収まったりしますからね」
「ああ、なるほど」
「身から出た錆ならいいですが、単なる災難もありますなあ。一方的に来たような。こういうときは、まあ運が悪かったと思い、諦めるしかありません」
「その間、不安でしょ」
「はい、不安ですよ。食欲もなく、元気もなく、精神的に不安定になりますからねえ、とんでもないことをしてしまうこともありますから、下手に動かない方がいい。不安だけではなく、不安の二次災害、三次災害を引き起こします」
「だから、不安なときは、あまり動かないと」
「まあ、不安感で怯えて暮らせばいいのですよ」
「そ、それは」
「だから、それは長く続きませんよ。慣れると言ったでしょ。その中で、安全な楽しみ方などを見つけて、息抜きしているはずですよ」
「は、はい」
「私は、不安なときは、地味なことをして過ごします。普段は面倒なので、しないようなことをね。だから、不安も使いようですよ」
「少しだけ不安が薄らぎました」
「どの程度?」
「一割の半分ぐらいでしょうか」
「じゃ、五分ですな」
「はい」
「一寸の虫にも五分の魂。それでいいのですよ」
 相談者は、少しだけ笑ってしまった。
 それだけでは、何も解決しないのだが。
 
   了




2014年3月31日

小説 川崎サイト