小説 川崎サイト

 

引っ越し予定の町

川崎ゆきお



 引っ越し先に予定していた賃貸マンションは市街地の端にあり、室田はその小さな駅に降りた。この路線に出来た新駅らしく、駅前は小綺麗なのだが、何もない。
 しかし、それは室田の思い違いで、この駅は昔からあった。田圃の中に新たに出来た町ではなく、賑やかな場所からは離れているが、古くからあるような町だ。
 新駅だと思ったのは、駅を建て直したためだろう。高架になったため、嫌でも駅舎も新築しないといけないだろう。
 旧駅舎の頃もよく知らないのだが、車窓から見た印象では、今よりも、もう少し店などが建ち並んでいた。高架工事で、さっと片づけられた感じだ。駅の表に地方銀行とファストフード店がある程度。裏の方が、まだ古い建物が残っているようだ。
 引っ越し先として予定しているマンションは駅の裏側にあるので、室田はそちら側に立っている。駅前は路地のように狭く、さらに自転車がびっしりと止まっていた。マンションは駅から十五分となっているのだが、実際にはもっとかかるだろう。だから、自転車で駅まで出ることになるかもしれない。
 不動産屋でもらった地図で、おおよその位置は分かるので、その方角を向いて、適当な路地に入った。狭苦しい場所で、昔の市場だろうか。ほとんどシャッターが閉まっており、ただの住居になっているようだ。しかし駅裏のかなりの面積を占めている。古い建物が残っていると思ったのは、この市場だったのだ。
 路地は三筋ほどあり、並行して駅から離れていく。左右に店屋があったのだろうが、今はもうアーケードさえない。その痕跡のような鉄柱がぽつりぽつりとある。その少し上に飾り花とか旗などを差す筒がぽつりとある。錆び付いており、今にもポロリと落ちそうだ。
 市場を抜けると住宅と町工場が混ざる下町になる。道幅は狭く、車道だけで歩道はない。普通の家の玄関先が鉄工所だっりする。そこに止めっぱなしのような小型トラックのようなのがあり、それも錆び付いている。道路もそこだけ茶色い。
 夕方近い時間帯だが、人の姿は少ない。車がたまに通っているが、商売用の車だろう。文字を見ると酒屋名が書かれてある。
 目的地はこの奥になるのだが、徐々に心配になってきた。もうここで果てているような場所なのだ。さらに果てるのかと思うと、逆にわくわくしてくる。
 不動産屋で見たマンションの外観写真では緑が多い。近くの公園を背景にしているためだろうか。
 その下町風景は結構続き、その果ては田畑になるのではなく、大きな工場にぶつかったり、ゴルフの練習場などがある。徐々に建物の並びが荒っぽくなってくる。良く言えばこせこせしていない。
 大きな倉庫があり、その塀が何処までも延びている。その先に目的のマンションがあるのだが、本当にあるのだろうかと心配になってくる。四階建てのこじんまりとした建物なのだが、こういうのが、こんな背景の中にぽつりと建っていそうな気がしない。やはり、周囲もそれに近いものが並んでいる一角があるはずだ。
 室田はそう思いながら倉庫の塀を抜けると、大きな道路に出た。国道だ。
 ああ、ここから違うのかと思いながら、室田は安堵した。歩道は広く、その沿道には店屋が並んでいる。看板が結構見える。ハンバーグとか、焼き肉とか、本とか。
 そして高い建物が結構目立ち、高層マンションが背比べするかのように上を向いている。地図では、その一角に目指すマンションがある。
 そして番地の下の桁まで来たとき、気持ちが少しだけ沈んだ。周囲のマンションが高すぎて、四階建てのそれが貧弱に見える。
 公園の樹木かと思っていたのは高層マンションの庭だった。
 室田は、ここではないと思った。確かに目的のマンションなのだが、場所がそぐわない。気に入らないのだ。
 あの工場と住宅が混ざりあった狭い道沿いの方が好ましかったようだ。
 室田は改めて、駅前で個人でやっているような不動産屋を訪ねることにした。
 
   了




2014年4月13日

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