小説 川崎サイト

 

胎内道

川崎ゆきお



 徳田はいつも朝に行く喫茶店が臨時休業だったので、別の喫茶店へ回ることにした。その近くにも喫茶店はあるのだが、馴染みがない。高級そうで、しかも値段も高い。毎日通えるような店ではない。
 いつもの店が定休日のとき、行く喫茶店がある。そこもたまに入っているので、常連客に近い。店の様子や客の様子もよく分かっている。
 そちらへ向かおうとしたのだが、結構遠い。家とは反対側にあるためだ。朝から自転車で長い距離を走りたくないが、通り慣れた道だ。知らない道筋よりも、意外と早く着く。時間は同じでも、距離が短く感じられるのだ。それはいつもの沿道風景を見慣れているためで、その順序が分かるからだ。あの交差点を通過すれば、役所の支所があるとか、それを越えると数日前から展示販売している住宅があるとか。
 しかし、休みの喫茶店から同じ道で戻るのは面白くない。それに次に行く喫茶店とは最短距離にはならない。
 そこで、いつもと違う道筋を斜めに突き切ることにした。その辺りの道は普段全く自転車で走っていない。それほど離れていないのだが、入り込んだことはない。新聞配達をしているわけではないためだ。
 そして、その中間地点にさしかかったとき、親戚の家を思い出した。確か引っ越して、居ないはずだが、引っ越し先も知らないし、またその挨拶もなかった。もう世代交代してるためだろう。縁がなくなっている。しかし、従兄弟が跡を継いでいるはずだ。
 子供の頃、よく遊んだが、大人になってからの行き来は、葬式ぐらいだろか。彼が結婚したことも、知らされなかった。仲の悪い親戚ではないのだが、どうも家族関係が複雑らしい。
 その家が、近くにあることを思い出し、徳田はその路地へ入った。かなり入り組んだ場所にあり、表の道からは家が見えないほどだ。田畑だったところに出来た分譲住宅地のため、その小道は私道だ。そして、袋小路になっている。抜けられないのだ。
 徳田がその路地に入り込むのは何十年ぶりかだ。近くに住んでいても、それほど行き来がないためだろう。叔父が亡くなったとき、通夜に来て以来だろうか。
 案の定、表札は別の名前になっている。見なくても分かるのだが、確認のためだ。
 そして、壷の底のような私道を一周するように戻ろうとしたとき、道が出来ているのを見つけた。
 行き止まりではなかったのだ。知らない間に出来たのだろうか。隣の住宅地と繋がったようだ。
 もし当たっていたら、よく通る通りまで続いているはず。そこからこの住宅地がよく見えていた。
 徳田は私道の細い道を通り抜けた。よく知っている通りが出るはずだ。
 しかし、行けども行けども分譲住宅地の中から抜けられない。
 ということは、さすがになかった。
 そして、いつもの道と合流し、喫茶店へと向かったのだが、なぜか新鮮だった。
 胎内道巡りとは、こういう感覚かもしれないと徳田は思った。
 
   了
 


 


2014年4月21日

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