小説 川崎サイト

 

天麩羅の効用

川崎ゆきお



 三村は眠くなった。起きてしばらくなるが、まだ昼寝の時間ではない。
 朝食が効いたのかもしれない。昨夜の残りの天麩羅を食べたためだろうか。朝からしつこいものを、とは思いながらも、賞味期限がある。
 春先とは言え、昼間は暑いほどで、食べ残した天麩羅の盛り合わせをそのまま冷蔵庫の上に置いていた。もし仮に冷蔵庫の中なら、この天麩羅、昼に回すだろう。
 三村の朝食はお茶漬け程度のもので、胃にもたれないものを食べている。しかし、賞味期限には勝てない。昼にまで残すと、危ない。食べなければいいのだが、メインとして大事にとっておいた海老が残っている。この天麩羅の盛り合わせの花だ。これを食べないで捨てる手はない。
 それで、朝から天麩羅を食べたためか、眠くなってきた。もたれたのだろう。
 それもあるが、いつも、くつろいでいる場所に日が射し込み、それで暖かくなり、眠気を誘ったのかもしれない。
 だが、昨日もひなたぼっこのような感じで、くつろいでいたが、眠くはならなかった。
 やはり天麩羅が効いているのだ。
 これは幸なのか不幸なのかと考えた。海老の天麩羅を食べたのだから幸だ。満足感もある。しかし、眠くなり、何もしたくなくなった。
 提出しないといけない書類がある。書き間違えると、二度手間になる。そのため、少しだけ集中力が必要なのだ。これがテレビでも見ながらゆったりとしているのなら、集中力もいらない。テレビ番組をよく見ていなかっただけのことだ。それで困るようなことは何一つない。だからそのまま、うとうとしてもかまわない。
 しかし書きかけの書類にも期限がある。今日中に投函しておいた方がいい。
 三村は書類を書こうと決め、眠気覚ましに缶コーヒーを買いに出た。
 外に出た瞬間、眠気そのものが不思議と取れた。天麩羅の効能も、ここまでだったようだ。
 そして自販機でブラックコーヒーを買い、部屋でまた書類と向き合った。
 コーヒーを一口入れた瞬間、さーと、頭がさえた。これで、書類が書けると、三村はそれに集中しかけたとき、来た。
 下痢だ。
「賞味期限までに食べたのに」
 と、ぼやきながら、三村はトイレへ向かった。
 
   了



 


2014年4月29日

小説 川崎サイト