小説 川崎サイト

 

八百万の神

川崎ゆきお



 田村は調子が悪いときは早く起きてしまう。善いことがある日は早く起きることもあるのだが、体調に関しては悪いときに限り、早く起きるようだ。それ以上眠ってれないような感じになる。
 田村は年をとってから、睡眠時間が少し短くなったのだが、そのためではない。
 そこで、今日は大人しくしておこうと決めた。
 しかし、田村は普段から大人しく暮らしている。これ以上大人しくとなると、寝ているしかない。
 しかし、これ以上眠れないので、ただ単に横になるだけにした。
 そして、日課としている調べ物を、今日は辞めることにした。
 その調べ物とは、神様についてだ。宗派性のない土俗信仰のようなものだろうか。山の神や海の神程度の漠然としたものだ。神の個人名さえないような。
 田村は学者ではない。古い農家で育ったので、家の中も外も、いろいろな神様がいた。それが今では懐かしいような謎で、あれは何だったのかと、思っているだけだ。
 ヤオロズの神と言われるほど、多くの神がいる。これは無限ではないかと思えた。八は八方のことで、八方美人の八方だ。東西南北で四方だ。その斜め方向を加えれば八方となる。八方手を尽くすの八方で、あらゆる方角が指す。だから、あらゆるものに神がいることになる。
 これは多すぎるが実際には一つではないかと思える。田村は、そこまで考えていたのだ。多すぎると、神一括りでいいのではないかと。
 人知を越えるもの、これ全て神だと言える。
 また、人の力を越えるものも神だ。つまりそういう概念を神と名付けていた。というところまでは、調べてあるが、そこから先は、神の正体になるのだが、人知を越えているのだから、人の頭では想像も出来ないことだろう。
 だから、何でも好きなことが言える。
 田村はこのカミサマの研究を日課にし、土着信仰的な、言い伝えなどを多く集めていた。いくら集めても、それ以上深くは見えてこないので、後は想像なのだ。
 ただ、神社や神話に出てくる神は除外している。そこに土俗的な、地域限定の信仰が隠されているかもしれないが、そんな系統だったものではなかったのではないかと。
 そういうことを思いながら、横になっているうちに、快い気持ちになってきた。
 そして、うとうとし始め、やっと寝入ることが出来たようだ。
 起きると昼前で、十分寝たことになる。寝汗をかいていたが寝起きは悪くない。
 これが風邪だとすれば、邪が抜けたのかもしれない。
 
   了
 

 


2014年5月17日

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