小説 川崎サイト

 

日影を作ろうとした男

川崎ゆきお



「暑いときはねえ、コートを着るのが一番なんだ」
「それは暑いでしょ」
「炎天下はこれに限る」
「あまり見かけませんが」
「買い物自転車のママさんがそうだろ」
「あれは日焼けをしないようにでしょ」
「日焼けに効くんだ。それだけでも正解だと思わんかね」
「僕はどんどん脱いでいきますよ。パンツ一枚でもいいほどですよ」
「日差しのあるときは、日影に入る」
「はい、当然です」
「日影のないときは日傘を差す」
「しかし、男性では」
「昔の皇帝なんぞは大きな日傘を差していたじゃないか」
「傘持ちがいません」
「日影もなし、日傘もなしならどうする」
「帽子ぐらいですね」
「そうだな、庇の広い麦藁帽のようなのだな」
「はい」
「暑い季節の運動会では、テントが出るのう」
「日除けですね」
「それと同じように、コートをテント代わりにする」
「はあ」
「シーツでもいいんだ。ただし、だぶっとしたものがよろしい」
「逆に着込むのですね」
「そうだ。これは民族衣装にもなっておるが、それをやると目立ちすぎる」
「たとえば」
「ゲゲゲの鬼太郎に出てくるネズミ男のようなものかな。あの布一枚だけもいい」
「あれはビルマあたりの坊さんじゃないですか」
「ビルマの竪琴で見たな」
「はい、映画をテレビでやってましたから」
「だから、ふわっとしたコートがよろしい」
「でも、それ、猥褻系の不審者に思われますよ。全裸の上にコートだけ」
「さあ、そこだ。実際、それが一番いいのだが、世間がうるさい。だから、目立たぬ服装で、その効果を得るようにする」
「特大サイズのカッターシャツなんかはどうですか」
「それでもいい。しかし、テントを張るが如くなので、もっとゆったりとしたものが好ましい」
「ありますか」
「探しておる」
「それで、本当に炎天下、涼しいのでしょうか」
「原理的にはな。それは夏でも長袖のパジャマを着るようなものじゃ。あれは少し暑いので汗が出る。それが水冷効果になる」
「汗が出ると暑いんじゃないのですか」
「その水分を利用するのじゃ。意外と涼しい。汗をかいた後、寒くなることがあろう。あれだ」
 そう語る男は、真夏、大きなレインコートを着て炎天下を散歩した。
 効果どころか、大汗をかき、すぐに脱いだ。
 しかし、最初の暑さを我慢すれば、その後涼しくなったはずだと、何度もトライした。
 いずれにしても暑苦しい話だ。
 
   了
 
 


2014年5月23日

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