小説 川崎サイト

 

妖怪の創作

川崎ゆきお



「妖怪とは風流なものかもしれんなあ」と妖怪博士が語る。
「風流ですか」妖怪博士付きの編集者は、一応その話に乗る。妖怪の概略ばかりで、最近妖怪談がない。それがやや不満なようだ。
「江戸時代の妖怪絵を見ていると、川柳のようなもの、都々逸のようなものにも見える」
「色物のようなものですか」
「幽霊のような真剣さがない」
「はい」
「どちらかというと動物的だな。だから妖怪と呼ぶのだろうが」
「妖獣ですね」
「怪獣のように種類が多い。どれも似たようなものだがな」
「博士も一つ作ってみてください」
「そうだな、妖怪は作らないと出て来ん」
「しかし博士、作りものではやはり迫力がありませんねえ」
「今、作れと言ったのではないのか」
「言いましたが、やはり白々しい世界です」
「では、怖い妖怪ならいいのかな」
「怖いですが、退治出来るような」
「自分で作っておいて退治か」
「その妖怪には弱点があって……」
「ああ、それは少し違うなあ」
「飼い慣らされたような妖怪のためですか」
「そうそう。やはり野良でないとな」
「野良」
「野生じゃよ」
「もっと動物的な。獣的なものですか」
「そうじゃな、そこに大自然などとも繋がる」
「じゃ、森の守り神のような妖怪とか」
「ん?」
「森を守っている妖精のような」
「あるなあ」
「あるでしょ」
「それは私の好みではない」
「あ、はい」
「家の守り神は」
「それはいい」
「じゃ、森はどうして駄目なのですか」
「山ならいい」
「森はどうして駄目なのですか」
「何を守っておるかじゃ」
「自然でしょ」
「それはリアルすぎる」
「自然破壊云々ですか。博士」
「そっちへ持っていくと風流ではない」
「はあ」
「風流は、どうでもいいことなんじゃ。そこにとどまっておるのがいい。家を守る、山を守るは妖怪ではなく、神だろう。やはり、何かいたずらをしてもらわんとな」
「妖怪博士にも妖怪の好みがあるんですね」
「まあな」
「風流な妖怪が好みでしたか」
「風流、風雅、これともまた違う。もっと子供っぽい」
「オバケが出たぞーって感じですね」
「まあ、個人の好みを言うべきではないがな」
「しかし、妖怪もおもちゃのようになっては迫力が」
「いかがわしさ、胡散臭さ、そういうのも必要じゃ」
「また、新しい妖怪を作ってくださいよ。博士」
「本物の妖怪が出ぬので、作る。これはやはり、やらん方がいいのじゃがなあ」
「はい」
 
   了
 


 


2014年6月21日

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