小説 川崎サイト

 

日常外の世界

川崎ゆきお



 昨日と同じような今日が来る。これが一番安定しているように思えるのは、安定を望んでいるためだろう。毎日毎日同じような日々では変化がなく、飽きることがある。違った展開を望む人も多いだろう。ただ、それにはいつもの安定した日々があってのことかもしれない。連日連夜波瀾万丈では体も持たないだろう。それらは短期で終わり、またいつもの日常に戻る。しかし、波乱万丈をやり過ぎて、次の日はもう別の日常になっているかもしれないが。
 徳田は年取ってきたので、昨日と同じような今日の方を好んでいるが、必ずしもそうではない。別に退屈はしていないが、少しだけ刺激が欲しい。これは人生が変わるほどのことではなく、元に戻せたり、また昨日よりは少し良い状態が続くようなバージョンアップ程度だ。決して革新的なことではない。
 ただそういうことも贅沢な話なのかもしれないが。
「変化ねえ、ありますよ。最近連続テレビドラマをまとめて見ているのですが、変化を十分堪能出来ますよ。しばらくは登場人物の誰かになったような気になりましてねえ。その人と日々生きているようなものですよ。まあ、ドラマですからねえ。最後はいいようになるんです。大成功を収めてね。それまでは結構苦しいです。見ていて苦痛です。しかし、その苦痛をしばらく我慢しておけば、その後、展開がよくなるので、そこでカタルシスを味わうわけです。これが最初から最後までスラスラと行けば、カタルシスもない。まあ、スラスラ行く方が良いですがね。何も抵抗体がなくてね。しかし、変化があったほうが楽しい。しかし、あまり苦しい展開になると、引いてしまうことがあります」
「それはフィクションでしょ」
「はい、筋書きのあるドラマです。実は結果は知っているのです。ハッピーエンドで終わります。だから安心して見てられるのです」
「やはり、リアルの現実上での出来事でないと」
「気分だけは波瀾万丈、しかし、画面を消すといつもの私に戻っている。これって安全でしょ」
「僕は、散歩などに出て、町の変化などを楽しんでいます」
「また地味な。大きなドラマはないでしょ」
「はあ」
「現実では叶えられないことはフィクション、バーチャルで済ませるのも方法ですよ」
「しらけませんか」
「はい、感情移入は得意なので、作り物なのだけど、そうは思えなくなるのです。真剣に見てますからね」
「良い性格ですねえ」
「はい、おかげさんで」
「確かに人には夢が必要ですね」
「夢のまま終わることが多いでしょ」
「あ、はい。最近はだから、大きな夢は見なくなりましたが」
「これはねえ、一種のガス抜きなんですよ」
「あ、はい」
「昔は、祭りなんかがそうだったんじゃないですかね。あれはフィクションに近い話ですよ。それに非日常の世界だ。つまり、非日常な世界が必要だったのですなあ」
「今もですか」
「たまには、とんでもないことに遭遇したいものですよ。しかし、悪いことでの、とんでもないことはあっても、良いことでは少ないですからねえ」
「僕は非日常かどうかは分かりませんが歴史を調べたりしています。昔の暮らしとか、昔あった戦いとか」
「なるほど、それも今の現実とは一寸違うので、別世界を彷徨う感じですかねえ」
「そうです」
「まあ、日常が退屈で変化がないと、そっちへ行くのでしょうなあ」
「はい」
「だからって、現実は動かない。そうでしょ。人の話で、私の話じゃない。私はそのままだ。それが少し物足りないのですがね」
「しかし楽しみ方の一つとしていいんじゃないですか」
「そうですなあ。そういう楽しみが出来る状態だけでも十分かもしれません」
「久しぶりにお会いして、まだ元気そうなので、安心しました」
「ぼんやり時を過ごしていても、どんどん過ぎ去っていきますなあ」
「じゃ、今日はこれぐらいで」
「はい、ドラマの続きに戻ります」
「はい、お元気で」
 
   了
 
 
 

 


2014年7月4日

小説 川崎サイト