小説 川崎サイト

 

ごきげんよう

川崎ゆきお



「今年もまた暑い夏がやってきましたなあ」
「去年も言ってましたが」
「まあ、例年の如く」
「如くですか」
「いやあ、まあ、他に言うことがないので、適当です」
「しかし、熱中症なんかで倒れたら大変でしょ。重要なことですよ。暑いというのは」
「そうですなあ。冬、寒くて部屋で凍え死んだというニュースはあまり聞きませんが、部屋の中で熱中症で倒れた話はよく聞きますよ」
「正月、餅で喉を詰まらせたとかもね」
「まあ、若いときは関係のない話として、気にもかけていませんでしたが」
「正月の餅、夏の熱中症、これは大きなポイントです。注目ポイントです」
「本気ですか」
「今年の元旦、餅を食べましたが、気になって、気になって」
「ほう、雑煮で」
「その方が柔らかいですから、噛みやすい。それで、餅も小さく口に含んで、少しずつ喉に持っていくようになりましたよ。よく延びる餅は怖い。切れが悪い奴はね。飲み込むか飲み込まないか間のところで、紐を入れたが如くになる」
「如くねえ」
「食道へ持っていくか、戻すか、迷うところです。どちらも力が必要です」
「目を白黒させながら」
「はい、そうです。飲み込むのなら一気です。これは力みますよ。まあ、戻した方が安全なのか、飲み込んだ方が安全なのか、判断しかねます」
「どちらにします?」
「状況と食欲にもよります。気弱なときは戻します。しかし、引っかかると厄介だ。戻そうとしておきながら、また飲み込もうとする。これは少し勢いが弱い。だから、飲み込むのなら最初から飲み込むべきなんだ。引いちゃだめ。中途半端に」
「飲み込みの悪い人って、どうなんでしょう」
「喉やポンプの問題でしょうなあ」
「いやいや、話の飲み込みが悪い人がいるじゃないですか。あれは、飲み込み損ねて、引っかかるのが苦しいためなんでしょうなあ」
「ああ、そっちの話ですか。よく分かりません」
「飲み込むには力がいる。勇気もね」
「理解力の問題じゃないですか。話の場合は」
「胃に落ちてからも、消化しきれないで、胸焼けするとかもありますなあ」
「よく噛まないで飲み込むからですよ」
「消化も吸収も難しい。上げるか下すかでしょうねえ」
「汚い話にきましたねえ」
「喉の手前は歯や舌ですなあ。これらも比喩が多い。噛み砕いて話すとかね」
「ありますねえ、いろいろと」
「例えば?」
「歯がゆいとかも」
「ああ、ありますなあ。生理的な間隔は大事なんでしょうなあ。分かりやすい」
「それより、暑いのは大丈夫ですか。今日あたりから、猛暑かもしれませんよ」
「暑さと肉体箇所との関係、何かありますか」
「消化器系ではなく、皮膚系じゃないですか」
「暑苦しい話ってのもありますよ。寒い話も」
「皮膚も大事ですねえ」
「そして、体も大事です」
「お互い気をつけましょう」
「はい、ごきげんよう」
「はい、お達者で」
 
   了
 
 


 


2014年7月7日

小説 川崎サイト