小説 川崎サイト

 

ポストモダンセンス

川崎ゆきお



 注目ポイントがいつの間にか変わっていることがある。たとえば気にしていることだ。興味を持っていることでもいい。好みでもいい。大きな好みの変化ではなく、その範囲内なのだが、気にならなくなった好みもある。これは気に入らないわけではない。あくまでも好みのうちだが、そこにポイントがなくなっている。といって別のものに置き換わったわけではない。
 その好みには五つほどのパターンがあったとする。そのうち一つが痩せたように減り、二つ目も減り、最近は三つほどで回っているとかだ。これは好みが淘汰されたのだろうか。または、消えた二つはそれ以上延び白がなかったかだ。または、おいしいところを食べきったためだろうか。決して滅んだわけではないが、痩せてしまったのだ。これは休耕田のように、休ませれば、また復活する可能性がある。
 注目ポイントは好みのようなもの、興味のようなものかもしれない。そうなると、感覚、センスのようなものだろう。つまりセンスの変異なのだ。ただ、今までにないものが増えたわけではなく、以前から好みとしていたものを続けているだけかもしれない。横へ向かわないで、縦へ行くこともある。
 田村はそんなことを思いながら、続いているもの、続かなかったものなどを整理していた。物事が変わるように田村自身も少しは変化している。だから、田村の常識、センスも固定していない。大きくはずれることはないのだが、使い回しのいいものを多く使うようだ。
「そうだねえ、田村君は以前よりも余計なことをしなくなったねえ。専門が決まってきたんじゃないのかい」
「最初考えていたこととは違うのですが」
「ほう、じゃ、最初はどんなことを考えていたんだ」
「もっと他にいろいろとあるように思ったのです」
「だから、いろいろとやってきたのでしょ」
「そうです」
「それが、最近落ち着いてきた」
「そうです。先生」
「いいじゃないかな。それで」
「先生にもそんな時期がありましたか」
「そうだねえ、私が出来ることは、このあたりかな、と思うようになった頃からですかな」
「外に向かわないで、内に向かうということですか」
「そういう関係じゃない。内に向かうことが外に向かうことにもなる」
「抽象的です。先生」
「まあ、研究なんて、そんなものですよ。それほど多くは出来ない」
「はい」
「時間も限られている。その中で何らかの成果を出さないといけない。すると、多少は効率よくやるものですよ」
「効率の問題ですか」
「そうじゃないが、何となく、ストンとそのあたりに落ちるんだよ」
「はい」
「まあ、若い頃思っていたほどの人間ではなかったことが分かる時期が来る。大した人間じゃないとね。その自惚れがまず消える」
「僕が今その時期です」
「そうでしょ。だから、自分の畑を耕すしかない」
「田舎へ帰れと」
「そういう意味じゃない。田舎へ帰っても田圃など、もうないだろ。君の場合」
「あ、そうでした」
「大志が小志になる。それもまたよしだ。私のようにね」
「それらは、何処で決まるのでしょうか」
「センスだよ」
「分かりません」
「好みのようなものが変わるように、センスも練られる」
「それは楽しいですか」
「程々にね」
「はい、了解しました」
 
   了

 



2014年7月25日

小説 川崎サイト