小説 川崎サイト

 

年中行事

川崎ゆきお



 毎日毎日同じことを繰り返していると退屈になる。そこで昔の人は筋目筋目に行事をこしらえていたようだ。一番大きいのが正月だろうか。年中行事のトップバッターだが、その前に大晦日などもある。いずれも、退屈なので、そういう楽しみをこしらえていたのだろうか。儀式が先か、楽しみが先なのかは分からない。ただ、いつもとは違うお節料理、重箱に入ったものを食べる。食べることが最大の楽しみかもしれないが、年中いい珍しいものを食べて暮らすわけにはいかない。それだけのお金もないし、用意も大変だ。
 当然村祭りなどは最大のイベントだろう。それらは季節とも関係してくる。節分だ。折々の節目で何らかの行事をする。それが年に何回かあり、それを楽しみに、普段の地味な暮らしを過ごすのだろう。ずっと地味なわけではなく、そうした日がたまにあるし、その日も決まっている。当然大きな祭りなら、終わった翌日から、もう準備をしていることもある。
 日々、同じことの繰り返しの中で、そうではない日が訪れる。これがいいのだろう。町の祭り、村の祭り、家の祭りと。
「年中行事ですか」
「そうです。もう少なくなりましたし、それほど楽しみにはしていませんがね。そこでです」
「何ですか」
「自分で年中行事を作るわけです。もう昔のよう名村の共同体もなくなりましたからねえ」
「私はスポーツセンターへ通っているのですが、そこでいろいろと行事がありますよ。室内の施設ですが、ハイキングに出たりします。花見や紅葉狩りもね」
「ああ、そういうところも村のようなものなのですなあ」
「そうです。その代用のようなものです。会社へ行っていた頃は、いろいろ行事がありましたよ。当然盆踊り大会も花火大会も、温泉旅行もカラオケ大会もね」
「ああなるほど、しかし私は一人が好きでしてねえ。あまり団体戦が好きじゃない。そういう団体に加わることが嫌なんです」
「ああ、そんな人がいるんだ。よくそれで生きてきましたねえ」
「いやいや、だから、いやいやながら参加していましたよ」
「そうでしょうなあ」
「そこでです」
「何ですか」
「自分で年中行事を作り出したのは」
「ほう、どんな」
「夏はカブトムシ狩りです」
「まあ、昆虫採集のようなものですか」
「冬は耐寒ハイキングで、霊場巡り。これは、近くの山に霊場跡がありましてねえ。結構いろいろなものが残っているのですよ。これは夏場がいいのですが、あえて冬場に行きます」
「ほう。要するにただ単に楽しみを作るだけのことでしょ」
「それじゃ遊んでいるように見える。道楽をしているような。趣味に走っているように見えてしまう」
「実際、そうじゃないですか」
「それじゃお天道様に申し訳ない。やはり、昔からある年中行事のように、意味付けが必要なんです。そうでないと安心して遊べないじゃないですか」
「いや、だって、そもそも遊びなんですから、それでいいんじゃないですか」
「そんなことでお金を使うのは、罪悪感があるのです。無駄遣いですからねえ。しかし行事のために使うお金ならいいんです」
「それで、カブト虫狩りですか」
「はい」
「それはどんな行事なのです」
「これは虫祭りと言って、まあ、悪い虫が付かないように願う行事です。また、流行病にかからないための行事です。儀式です」
「なるほど、名分を持ってきましたねえ」
「そうです。それらは安心して遊べます」
「他に何かありますか」
「秋には出た瞬間松茸を買って食べます」
「ほう」
「これは春のイチゴ祭りと、秋の松茸祭りはペアなんです。自分で決めました」
「高いでしょ、松茸は」
「松茸は魔羅です。これは魔除けです。あの形が魔除けなのです。それを食べないと、冬は越せません」
「言いたい放題ですよ。それじゃ」
「行事です。年中行事です。自分で作りました」
「はいはい」
 
   了


2014年8月7日

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