小説 川崎サイト

 

神柿

川崎ゆきお



 柿が成っている。渋柿だろう。先が尖っている。他人の庭の柿の木なので、何とも言えないが、最初から食べる気はないようだ。合田は散歩中、その前をよく通る。食べられる柿なら数が減るだろう。しかし実はなる一方で、去年などは下に落ちていた。その前に鳥が食べている。鳥は渋くても大丈夫なのか。もしかして、それほど渋くはないのかもしれない。
 ここで合田は勝手な想像を働かせる。鳥から守るため、渋くしているのではないか。鳥は種を運ぶ。しかし小鳥程度では種まで飲み込めないのではないか。カラスならいけるかもしれないが、突いているのを見たことはあるが、銜えて飛べないだろう。種を運んで欲しくはないと合田は見た。地面に落ちればそれでいいのだが、多少は転がった方がいいだろう。そうでないと柿の木の根元にまた柿の木が生える。
 これが森ではどうだろうか。落ちた柿の実を動物が食べる。種まで飲み込んでしまうかもしれない。すると。種は移動出来る。いや、そこまで行かなくても、雨風で流れたりして、移動するのかもしれない。
 住宅地の庭なので、干し柿にしない。これは渋くてもいけるように合田は聞いている。何処で聞いたのかは忘れたが、渋柿でもしっかりと食べる方法があると。
 合田は住宅地の庭の柿を見ながら、神社の境内に入る。いつもの散歩コースなのだ。境内は抜けられないので、入り口と出口が同じだ。そのため、境内を一周する。本殿の他にお稲荷さんのお堂がある。それらを巡って、再び鳥居に戻るコースだが、お稲荷さんの端に色目のあるものが見えた。柿色だ。そこは狭い通路があり、すぐに玉垣があるため、余地しか残っていない。つまり本殿と弁天さん、お稲荷さんの裏側の狭いところだ。
 そこに謂われのありそうな石や、円柱形の石がある。真上も丸く、これは削ったり磨いたりするのが大変だったように思われる。誰かの名前のようなものが刻まれている。神社なので、墓石ではないだろう。神様の一種かもしれない。そこで合田は勝手な想像をする。これは村神様ではないかと。そんなものがいるわけがない。氏神様がそうだが、それなら既に本殿で祭ってある。しかし、人も神様になる。実在した人物の神社はかなりある。東照宮は徳川家康。乃木神社も、東郷神社もある。だから、円柱の石は、この村では有名な人ではないかと。村の伝説的な偉人なのだ。たとえば百姓一揆を首謀し。処刑された人とか。
 お供えは柿と団子だった。それが五箇所ほど並んでいる。小さな石仏や、丸いだけの石の前にも。
 餅や団子は分かるが、柿も供え物としては定番なのかもしれない。
 合田はその柿の形を見た。平べったい。よく売られている柿だ。しかし、この辺りにある柿の木は、まだ青い。早いのは先の尖った渋柿だ。すると、この柿は買ってきて供えたものだと思われる。
 ふーん、と思っただけで、それ以上の思慮は合田にはない。
 ただ、渋柿を供えたら、と少しだけ余計なことを考えた。
 
   了



 



2014年10月5日

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