小説 川崎サイト



福助

川崎ゆきお



 夜の神社の詰め所での話だ。
「たとえばだ……」
「はい」
「夜中に裃姿の子供が歩いておるとすれば怖いだろうね」
「着物ですか?」
「福助人形を知っておるか?」
「古道具の市とかで、見たことあります」
「それの実物が歩いておったら怖いだろう」
「アニメじゃなく、実写なんですね」
「最近は人形を少しずつ動かした動画もある。しかし、アニメも人形も人ではない。わしが言うのは本物の子供が、福助人形のような扮装で歩いておる絵じゃ」
「絵画なんですか?」
「そうじゃない。絵と言ったのは映像のことだ。それもナマのな」
「確かに怖いです」
「同意を得たか」
「存在が怖いですねえ」
「正月早々縁起の悪い話じゃが、福助も招き猫も縁起物で、縁起のよい人形なんだな。だが、福助やお多福は怖い」
「もうお参りに来る人、いないようですが」
「何時だ?」
「二時前です」
「朝になれば交替が来る。それまで我慢しろ。少し寒いがな」
「この石油ストーブ、小さいですねえ。灯油持ちますかね」
「さっき入れたところだ。大丈夫だ」
「それで、何でした? どうして福助の話を?」
「年末に骨董市が立っていてな。そこで古い福助を見たんだ。このストーブほどはある。それを思い出しただけじゃ」
「僕は蕎麦屋で見ましたよ。飾ってありました」
「気をつけたほうがよいぞ」
「えっ! どうしてですか?」
「福助病があるらしい。福助が気になる病じゃ」
「聞いたことないですよ」
「わしは年末から福助病にかかっておる。福助の顔がずっとある」
「それで、福助が歩いていると怖いと」
「今にも鳥居の方から来そうな気がする」
「大丈夫ですか?」
「やられたのじゃ、年末に見た、あの骨董屋の福助に」
「どういうことです」
「福助と目が合った。それからこの症状が出た」
「怖がらせないでくださいよ。福助が来そうな雰囲気がするじゃないですか。いやいや、そんなことは無茶な話ですけど」
「回りくどかったかな。わしゃ、あの骨董品が欲しかったんじゃ。桁が一つ違ってた。来年こそ買うぞい」
 
   了
 
 
 


          2007年1月12日
 

 

 

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