小説 川崎サイト

 

楽しいこと

川崎ゆきお



「楽しいことを作ることですなあ」
「それが長澤さんの健康法ですか」
「さあ、どうだか、何をどうしても寿命には勝てんでしょ。天寿は何かは分かりませんがな、あっちへ行くことに変わりはない」
「その間、健康でいる方が良いですよね」
「生きてりゃ健康じゃよ」
「あ、はい。それで話を戻しますが、楽しいことを作るとは、どういうことでしょうか」
「知ってるくせに」
「ああ、はいはい」
「言ってみなさい」
「ストレス解消じゃないですか。ストレスが万病の元とか言われていますから、少しでも楽しいものを増やしたほうが良いという意味で」
「楽しいことを考えることは、そういう段取りじゃなくてのう。楽しいから考えるのじゃよ」
「辛いことは考えないようにするとか」
「面倒臭いから考えんだけの話だよ。まあ、暗いこと、心配事もあるがよ。森もあれば、木もある。林もあるでよ」
「カレーだけじゃなく、ハヤシも」
「あはは、そうじゃな。そんなのは普通に思えばいい。その中で、楽しいことを思うのは楽しいだろ。それだけのことじゃわい」
「たとえば病気になって苦しいときがありますねえ」
「ああ、だから、小さな楽しみを見付けるのよ」
「たとえば」
「歌を聴いたりとかな」
「あ、はい」
「こういうときに聴く歌は良いぞ。わしは三橋美智也と春日八郎が好きでなあ。孫がダウンロードして持ってきた」
「ああ、ユーチューブとかにあるんですよね」
「あまり古いと駄目だけど、テレビでやっていたような歌なら、あるんだとか」
「懐メロ番組などを録画したものですよね」
「あれは桂小五郎だね」
「はあ」
「だから、頭が桂小五郎なんだ。それがおかしくておかしくて」
「ズラですね。はいはい」
「だから、そういうのを見たり聞いたりするのを楽しみにしておる。普通じゃないかい。そんなこと。だから健康法でも何でもないわい」
「でも、苦しいこと、辛いことをずっとやらなければいけないときがあるでしょ」
「当たり前じゃないか」
「ああ、はいはい。そ、そんなときは」
「そんなときなあ。そんなときは君、その中で楽しいことを見付ける」
「苦しいのにですか」
「ずっと苦しいわけじゃないだろ」
「そうですね」
「少し楽になったときが楽しいし、それが終わったら、今度は島倉千代子を聴こうとか、そういうお楽しみを予約しておく」
「良い方法ですねえ」
「しかし、美味しいものを食べすぎると飽きてくる。だから、楽しみは取っておくのもいい。いざというときに在庫豊富な方が良いだろ」
「はい。プラス思考で良いと思います」
「何がプラスじゃ。マイナスも楽しめるのだぞ」
「ああ、はいはい」
「わしの今の楽しみはのう。こういうインタビューが苦痛なので、君の揚げ足を取るのを楽しみにしておるんじゃ。まだやるかい」
「ああ、いえいえ」
「君も誰かから頼まれてこんなインタビューに来ているんだろうが、因果だねえ」
「いえいえ」
「君の楽しみは何だい」
「考えたことありませんが、キャンプカーのようなのを買って、しばらく旅行に出ることです」
「あ、そう。そんな大技じゃなくても、楽しみは転がっているから」
「はい、有り難うございました」
 
   了

 




2014年10月7日

小説 川崎サイト