小説 川崎サイト

 

電書でGO

川崎ゆきお



「また出版してしまった」
「どうしたのお爺ちゃん、また失敗したの」
「失敗じゃなく、出版じゃよ」
「ああ、電子出版ね」
「今週は調子がいいので、ぽんぽん本が出せる。もう数百冊を越えたかなあ」
「毎日出してるの」
「一日三発も四発もぽんぽん出せる日もある」
「まあ、パチスロに行くよりましだけど」
「あれも、ぽんぽん出るときがあったけど、たまにだ。出版なら間違いなくぽんぽん出せる」
「そんなに書くものがあるの」
「ああ、日記を書いておるからなあ。それをそのまま出版するんじゃ」
「売れるの」
「何が」
「だから、出版して、それ、本でしょ。販売しているんでしょ」
「しとるとも、世界一大きな本屋でな」
「そうだった?」
「世界各国で売られておる」
「お爺ちゃんの本も」
「そうだよ」
「それで、売れたの」
「何が」
「だから、本は売れたの。ぽんぽん出すのはいいけど」
「ああ、ぽんぽん菓子のようにな。あれは米を持ち込まないと、やってくれんがな。米ならいっぱいある」
「それはいいけど、売れたの」
「それはない」
「な、ないの」
「迷惑じゃろ。もし買った人がおったとすれば」
「でも間違って買った人もいるかも」
「それは災難だろうねえ」
「それで、一冊も売れていないの」
「読まれたくない」
「そうなの」
「だから、買ってもらわなくてもいい。並ぶだけで」
「何処に」
「世界一大きな本屋にだ」
「大きすぎて見えないんじゃない」
「それより」
「なに」
「こう言うのは、ぽんぽん出すのが楽しいんじゃ」
「そうねえ、お金もかからないしね」
「そうだろ」
「パチスロよりましだわ」
「そのうち」
「何?」
「わしの本、パチスロのように当たるかもしれん」
「ほんと」
「数字の並びがいい。これは来るかもしれんぞ。あと一冊出せば777になる」
「はいはい」
 
   了
   

   
   
 

 


2014年11月4日

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