小説 川崎サイト

 

一事が万事

川崎ゆきお


「一事が万事」
「一字が万の字なのですか」
「一字が万字。うん、それもいい」
「何かありましたか、一事が万事のようなことが」
「あるネット上の投稿サイトがあるんだ」
「遙か上空にあるようで、よく分かりませんが」
「そこに画像を文中に挿入するとき、いつも二回か三回はやり直さないといけないんだ」
「はい」
「タイトルを入れる。そして本文を入れる。そのタイトルの下、本文との間に画像を入れています。ところが、その場所を指定して画像を入れても、いつも本文の真下に来る。画像はですねえ、これは送るわけですから、その時間がかかるし、貼り付けるまでの時間がかかる。数秒ですがね。しかし、待たないといけない。一回なら良い。二回、三回となると、このネット上のサービスは、この一事が万事ではないかと悪い印象を受ける」
「それはプログラムか何かのミスでしょ」
「そうそう、ミスと言うほどではないが、バグのようなものでしょ。それがなかなか直っていない。ずっとその状態なんだな。だから、直す気がないのか、直したくても方法が分からないのか、人出がないのか、または、これは業者に任せているか、または弄れないかだ」
「画像は出るのでしょ」
「出る。レイアウトも崩れていない。だから、実用上問題はない。それに、これは無料だしね。ただ、ストレスなんだなあ。これが」
「あ、はい」
「毎朝、それをアップしている」
「ブログのようなものですね」
「そうそう。しかし、書いた物を売ることもできるんだ」
「じゃ、頑張り甲斐がありますねえ」
「私は売らないよ。ただの日記なんだから」
「あ、はい」
「それで、毎朝、アップしているんだけど、その画像の挿入、一発で上手く行く日もあるんだ。しかし、次の日、きっちりと同じ動作で行っても、下に出てしまう。そこに無駄なスペースが空いているからと思い、それを削除してもだめだ。それでね」
「ちょっと専門的な話ですねえ」
「いや、専門も何もないよ。一般の人が普通に使っているんだからね」
「はい」
「この画像が上手く挿入できないことに関して、他の人が語っていたので、それを参考にした。カーソルの場所とかね、それに関係するとか。しかし、何をしても、結果は曖昧で、上手く行くときとそうでないときがばらばらに来る。そこで、もう諦めたよ。何をしても上手く行かないのに、行く日は行くんだ。それに画像を挿入できないわけじゃない。何度かやり直せばいいだけの話だし。だから、困ることはないが、ストレスでねえ。他のブログなんかじゃ、そんなことは起こらないよ」
「どんな」
「今日は一発でいけるか、同じことをまた繰り返して二発でできるか、三発でできるか、それを連日やってごらん、イライラしてくるよ。親切な人が解決方法を教えてくれも、その通りに成らんのだからね。意のままに操れない。この一事が悪印象でねえ。このサービスそのものの印象を悪くする。他の事でも、こういうことになってるんじゃないかと。さらにこれを提供している団体、会社何かよく分からんが、その会社の体質まで、この一事と同じ体質じゃないかと……ね」
「それが一事が万事なのですか」
「一つ悪いと、全部悪いんじゃないかと勘ぐってしまう。そして、この団体がやることを良いようには見なくなる。おそ松くんなところではないかと」
「それはイヤミですねえ」
「これはねえ、私は洒落を言うから万事そういう人間だと思われて、信用を落としたことがある。だから言ってるんだ。今も言いたいよ。とどのつまりはとど松ってね」
「駄洒落ですね」
「まあ、それはいい。その画像挿入のバグか何か知らないが、それを放置したままだと、ここはだめだよ。何か問い合わせても放置するようなところじゃないかとね」
「それは言いすぎでしょ」
「プログラムミスだとすれば、直せば良い。しかし、業者に任せているんなら、お金が必要だ。業者も作った人じゃなければ分からないだろう。そういうシステムをレンタルしているだけかもしれないしね。しかも本当に作ったのは海外の人だったりする。それをカスタマイズしただけ。この修正になると、面倒だろう」
「詳しいですねえ」
「こんなこと、誰でも知ってるさ」
「そのことを、日記に書かれては」
「書いてもいいが、読んでいる人は興味がないだろう。それに細かい話だし、重箱の隅を突くようなものなので、これもまた一事が万事になる。そう言うことばかり言っている人、狭い人だと思われてしまう。小さいことにこだわり、細かいことをぐつぐつ言う人だとね。だから、日記には書かない」
「日記なんでしょ」
「そうだよ」
「仕事じゃなく」
「まあ、そうだけど、仕事よりも熱心に書いているよ」
「それも」
「え、何が」
「一事が万事になりますよ」
「え、どこが」
「仕事より、プライベートなことに熱心な人だと」
「普通にいるだろ。そういう人は」
「しかし、目立ちすぎるとマイナスですよ。仕事より、趣味の方がいいってなると、仕事仲間の人は寂しがりますよ」
「え、見当が付かない説だねえ。よく分からん。理解できん」
「あ、私も」
「え、何」
「一事が万事になってませんか」
「いや、私の場合、いい面では一事が万事とは言わない。ちょっとしたことが気になったとき、この言葉を使う程度だよ」
「でも色々と事情があって、直さないんじゃないですか。直したいのに」
「そうだね、聞いてみないと分からない。しかし」
「はい」
「毎朝、それでイライラする。画像挿入程度で」
「インターネットって、そんなものでしょ。だから、私はしてません。それこそ一事が万事で、ストレスの集まりですよ」
「あ、そう。じゃ、画像挿入もないわけだ」
「そうです。そんな細かい話は発生しません」
「あ、なるほど」
「パソコンはあるのですが、未だにネットに繋げなくて」
「え」
「だから、イライラして、放置してます」
「ほう」
「ネット接続の一事で終わりました」
「む」
 
   了

 

 


2014年11月15日

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