小説 川崎サイト

 

空飛ぶ円盤

川崎ゆきお


「最近円盤が出ないねえ」
「円盤?」
「空飛ぶ円盤だよ」
「ああ、UFOですね。未確認飛行物体」
「昔はよく出たんだ」
「見られましたか」
「いいや、見た人が知り合いにいた。複数ね」
「何処ですか」
「五月山だ」
「知りません」
「近くの山だ。小さいがね。山脈というにはバラバラだが、平野部を取り囲んでいる。壁のようにね。山の向こうは昔は山また山だった。今は山向こうにも家が建ち、町ができているがね」
「その五月山に出たのですか」
「平野部から見ると、五月山の上に出た」
「月が出た出た月が出たのような感じですね」
「ああ、お盆のような円盤がね」
「じゃ、UFOの名所なのですか」
「そうだね、何かというと、五月山の上空に、となった。そのあと山の向こう側へ消える」
「それが最近出ないと」
「そうなんだ。山向こうにニュータウンができてから、出なくなった。いや時代かな。UFOがよく出ていた時代があるんだ。ツチノコもそうだ。その後、目撃談はあまり聞かないねえ。取り上げなくなったのかねえ」
「そうだと思います」
「五月山の円盤はねえ。光るものが上空にあるっていうような曖昧なものじゃないんだ。空港が近いし、自衛隊の飛行機も飛んでいるからねえ。かなり上空だが。飛行場の光、ライトだね。それが雲に反射か何かで、そう見えたんだろうが、それも含めて空飛ぶ円盤だと言っていたけど、実際に丸い円盤も目撃されているんだ。実際に見た人もいる」
「あれはねえ、わしが桑の葉をしまっているとき、ふと空を見ると……というような感じですか」
「いや、学校の校舎から見えて、窓からみんなで見ていたとかもある」
「それも丸い円盤でしたか」
「そこまでは聞いていない。不規則に動いていたとかね」
「ありましたねえ。昔、そういう話が、雑誌なんかでよく見ましたよ」
「もう特集しなくなったのかね。それとも報道規制か何かで」
「UFOのことに触れてはいけない規制ですか」
「いや、インチキ話を報じないようにと」
「どうなんでしょうねえ」
「しかし、あれほど頻繁に出ていた円盤が出なくなった」
「最近じゃ、宇宙でUFOが写っていて、当局も認めたとか」
「宇宙」
「はい、なんて言ったかな、宇宙基地があるじゃないですか」
「ああ、ちょっと高いところだろ、国際宇宙ステーションだね」
「あそこは宇宙ですよ」
「そうなのか、大きな人工衛星だろ」
「はいはい」
「じゃ、他の人工衛星や、残骸でも浮いていたんじゃないのかい」
「いえ、方角というか、軌跡が違います」
「何かにぶつかって、違うコースに入ったんだろ」
「まあ」
「それは円盤かい」
「いえ、光るものです」
「形がしっかりなければだめだ。五月山の円盤のように、灰皿を伏せたようなとか、葉巻のようなとかね」
「でも、そういう円盤、最近減りましたねえ」
「円盤は宇宙から来るとしてもすごいワープだろうねえ。瞬間移動に近い。だから、飛ばなくてもいいんだ」
「そうなんですか」
「だから、円盤の形をした円盤は地上の何処かから来る」
「ほう」
「円盤の巣があるんだ。そこから出てくるんだよ」
「ほう」
「昔は五月山の向こう側に円盤の巣があったんだ。それがニュータウンができたので、なくなったんだ」
「そうなんですか」
「まあ、その程度の話さ」
「でも、本当は宇宙人とすでに接触していて、イギリスなんかで国際会議をやっているとか」
「それは本当かもしれないよ。だって、誰も信じないから、大きな声で言っても大丈夫なんだ」
「そうなんですか」
「嘘だよ」
「あ、はい」
 
   了
 
 

 


2014年11月21日

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