小説 川崎サイト

 

門前の賑わい

川崎ゆきお


 小さなお堂や祠、石仏や、小さな石塔が立っている通りがある。川沿いの小道で、車がぎりぎり入れる程度。川を挟んで、向こう側には土産物屋や、雑貨屋などの店がある。古い店屋もあれば、最近できたような小ビルもある。川向こうは町とつながり、祠がある通りは山が迫っている。その中腹に、万病に効く寺がある。その御本尊はお釈迦さん。このお釈迦さんの法力ではなく、明王クラスの仏像が複数あり、内科や外科といったように、先生が違うのだろう。専門仏がそれぞれいる。
 それとは別に、もうお寺とは関係なく、その川沿いの道にいろいろな祠があり、そちらの方が賑わっている。それは参拝者が年寄りが多いため、階段がきついためだ。上まで行かなくても、下でも用事が済むためだ。
 その小道には傘の付属品などを売っている露天が出る。折りたたみ傘の柄の部分だけとか。先のキャップだけとかが売られている。また、五徳や十能のような火鉢用品も並んでいる。当然飾り数珠や空のお守り袋。これは中に何も入っていない袋だけのもの。たとえば愛犬や猫が死んだとき、遺髪を入れる袋なのだ。当然多用途お守り袋で、何を入れてもかまわない。ある年寄りなどは最後まで残っていた歯を抜いたとき、ここに入れている。
 川向こうにあるうどん屋のうどんは唇でも切れるほど柔らかい。このうどんは柔らかくしすぎて、出汁が濁るほどだが、そのぎりぎりのところを維持している。割り箸を動かすと出汁の中で粉が舞うような。
 当然、ぼた餅や、あんこの固まりに薄い皮のキンツバ、小豆の多く入っている赤飯や山菜おこわ。
 露天では十徳ナイフや、爪切り、それらを一つにして、千手観音のように何本もの道具が飛び出す千徳セット。これはかなり分厚いが、鋸や、爪楊枝まで出てくる。全部広げると、まるで蟹だ。
 これらの屋台などは、自然に発生したものではない。仕掛けた男がいるのだ。ただ、それは表には出ない。
 その男が企てたのだが、その背景にはこのお寺の法力が加わっている。それがなければ、ただの川沿いの小道だ。
「と、言うような伝説を作りたいのですが、どうですか」
「さあ、人が集まるかねえ」
「やりましょうよ」
「うーむ」
「もちろんお寺にもお金は落ちますよ」
「うーむ」
「じゃ、最初は屋台一つ出す、これでどうです。だめなら引っ込めればいい」
「そうだなあ」
 住職は煮え切らないままだった。
 
   了
   
   
   
 

 


2014年11月29日

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