小説 川崎サイト

 

動乱期の人材

川崎ゆきお


 動乱期、混乱した時代にしか役立たない人材がいるらしい。世の中が落ち着くと、もう仕事がなくなるのだろうか。本人も平和な仕事だと物足りなくなる。非常時にならないと、力が発揮できないのだ。これは大局を見極めた行動をするとか、多少荒っぽくても、強引にやってしまうとかだ。そういう状況がないと、ただの暴れ者になってしまう。そのため、平和な時代では静かにしているしかない。
 動乱期が終わると、今度は平和な時代の人材が活躍するらしい。動乱期は小者でも、大活躍をした人の部下だったり、知り合いだったりするだけで、高い地位にいたりする。
 また、大活躍した動乱期の英雄は長生きできないため、居残れない。荒っぽいことをした首謀者として、暗殺されたりする。
 というような幕末から維新にかけての話を田中は語った。
「今もいますか」
「動乱期の人材かね」
「そうです」
「まあ、動乱状態にならないと分からないねえ」
「はい」
「威勢のいい人が、そうなる可能性もある」
「はい」
「または退屈している人かな」
「誰でしょう」
「大きな動乱はないけど、小規模なローカルな動乱というか混乱状態はたまにある。そんなとき、水を得た魚のように活躍する」
「会社でもそうですか」
「猫に鈴を付ける役とかね。切り込み隊長のようなね」
「そういうタイプは平穏時ではだめなんでしょ」
「だめじゃないけど、退屈だろうねえ。派手に立ち回りたいだろうけど、ネタがない。誰も困っていないとか、敵がいないとかではね」
「でも、真面目で地味な人でも、大活躍することもあるでしょ」
「さあ、そういう人は、背後でフォローする役になるかな」
「田中さんはどうですか」
「僕かね」
「はい」
「どさくさに紛れて、甘い汁を吸うか、おこぼれを頂戴するタイプだから、褒められたものじゃない」
「社内では、誰でしょう。動乱期に活躍しそうな人」
「さあ、その地位にいないとだめでしょ。まあ、誰もやりたがらない場合、その地位を得られるかもしれませんがね」
「愉快ですねえ」
「え、何が」
「そんな感じで、他の人を見ていると」
「ああ、龍馬だらけだろ」
「坂本龍馬ですか」
「あの人、本当に歴史を動かしたのかねえ」
「え」
「彼がいなければ、別の人がやっていたか、または自然にそうなっていたかもしれないよ」
「薩長同盟ですか」
「まあ、英雄はあとで誰かが作るんだ」
「僕は龍馬と同郷の人で下級武士から大財閥に上り詰めた人の方が好きです」
「ほう」
「最後に暗殺されるような人は、しんどそうですから」
「じゃ、君は英雄には向いていないねえ」
「はい、動乱になれば逃げます」
「それも、またよしだ」
 
   了

   


 


2014年12月7日

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