小説 川崎サイト

 

気の毒

川崎ゆきお


「今年はどうでした」
「現状維持ですよ」
「ほう」
「例年より目減りしていますがね」
「今年の目標は達せられそうですか」
「それなんですよ」
「どうでした」
「一年の計は元旦にありで、毎年願掛け、いやいや、願い事じゃなく、神頼みではなく、今年は、これこれをする。こういうことをやっていく……などの目標を作っていたんですが、今年は辞めました。これが毎年年末になるとプレッシャーでねえ。まあ、年末から始めても、もう遅い。やるべきことをやっていないことが年末一斉に襲ってくるのです。これは元旦の一年の計がいけない。あれを今年は辞めたおかげで、悠々と年末を過ごせています」
「それで現状維持ですか」
「十分です。結局正月に決めたことができた年がない。だから自分でプレッシャーを掛けて苦しむだけです。そちらの方の副作用の方が大きい。それで年末近くから始めて、忙しく過ごし、結局時間がなくて、何もできなかったって事になります。この間、体調も悪い。だから、マイナスになってましたよ」
「一つの意見ですね」
「それでなくてもその前の年は体調が悪くてねえ。目標どころじゃなかった。朝、無事に目を覚ませただけでも御の字のような年でしたよ。食べて寝るだけで一杯一杯。それに比べると、今年はよくやった方ですよ。しかし、例年通りの出来ですがね。だから現状維持で十分」
「今年やり残したこともあるでしょ」
「だから、計を立てていないので、やり残しも積み残しもありませんよ。ただ、思う通りに行かなかったことも多々ありますが」
「多々」
「でも、それは来年のお楽しみにとっておきます」
「高い目の目標を作って、それに向かい、結局達成しなかったとしても、結構いい仕事をしていた、ということがあるでしょ」
「ありますが、やはり目標は達成しないとだめでしょ。私はそういう性分です。百点を目標にして六〇点より、目標を作らないで四十点でもいいのです」
「ほう」
「特に頑張らなくても取れる点数でね」
「僕は今年の目標が」
「達成できないのでしょ。それで忙しいのでしょ」
「まあ、そうですが、あなたの倍の成果は出しているはずです」
「そんなに急いで何処へ行く、ってやつですよ」
「まあ、あなたとは馬が合わないので、この話はやめましょう。僕は怠け者にはなれません」
「私、怠けていませんよ」
「ああ、それは失礼」
「しかし、まあ、体が資本ですからなあ。体調を崩せば、何もできない。そのリスクを考えると、無理をするのも考え物です。成果は上がるかもしれませんがね」
「いえいえ、まあ、それはそれ」
「そうですなあ、お互いこの年で、まだ仕事をしている。それだけでも十分でしょ」
「あなたと話していると気が楽になりますが、どうも張り切って頑張ろうという気が起きなくなります」
「毒ですよ。毒」
「気の毒というやつですか」
「毒も薬になりますから、まあ、気楽にやりましょうよ」
「しかし、僕は頑張りますよ。今年の目標にできるだけ近付くように、大晦日まで」
「はい、お大事に」
 
   了


  


2014年12月10日

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