小説 川崎サイト

 

床屋政談

川崎ゆきお


「政権というのは変わるのでしょうか」
「政治権力のことかな」
「じゃ、権力を握る人が変わるという意味で」
「政治の世界はよく知らないが、更新というのがある。これは刷新でもいい」
「余計に難しくなりました」
「要は目先を変えて、新鮮な気分で、またスタートしようと言うことかな」
「その政権がだめなので、政権交代ですね」
「そうじゃなく、天災や悪いことが起こったりしたあとなど、よくあったらしいよ。昔は。まあ、権力者って言っても、大した力はなかったんだろうねえ。だから、失政じゃなくても変わったようですよ」
「いつの話ですか」
「中世です」
「それは古い。今とは違うでしょ」
「気分替えですよ。年号を変えたりも」
「そんなことで、世の中が良くなりますか」
「ならない。しかし、今までのことは忘れて、新たな気持ちで、またやろうという仕切り直しの儀式ですよ」
「遠い世界の話なので、よく分かりません」
「遷都がある」
「また、難しい」
「いや、行きつけの飲み屋を変えることが、遷都のようなものですよ」
「それは何ですか」
「その店がだめなんじゃない。特に不都合はないが、別の店へ行くことにする」
「そんな必要はないでしょ」
「何かを切り替えたいときにね、そう言うことをたまにします。飲み屋でも喫茶店でも、スーパーでも何でもいい」
「はあ、そんな必要はないと思いますが、それで良くなるとか、暮らしやすくなるのなら、別ですが、そんなことをしたぐらいでは何ともならないでしょ」
「ところがそうじゃない。気が新たになる。験直しだよ」
「験直しですか」
「縁起直しとも言う」
「それって、気の持ち方だけで、改革性はないですよ」
「どの政権だってそうだ。永遠に続かない。長く続いたとしても、実際に動かしているのは別の連中だったりする」
「あ、はい」
「生活もそうだ。暮らしぶりもそうだ。三十年前、五十年前とはすっかり違っているだろ。これはもっと昔なら、百年か二百年は、似たような暮らしだったかもしれないけど、やはり着るものも、食べるものも、仕事も、変化している」
「はい」
「だから政権は変わって当然と」
「験直しでね。今までのことは忘れて、仕切り直しだよ」
「手品みたいです」
「ものの言い方を変えるだけで、違ってくるようなものだよ。やってることは同じだし。ただ、少し意味が新鮮なだけ」
「はい」
「これはお清めとお祓いなんだ」
「そっちへ行きますか」
「自然とやっているんだよ。そう言うことを」
「呪術の世界じゃありませんか」
「そこは太古から変わっていないねえ。言い方が違うだけで。政見放送を聞いていると、あれは祝詞だねえ」
「呪文のようなものですか」
「ああ、ごにょごにょと」
  
   了

  


2014年12月12日

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