小説 川崎サイト

 

日溜まり

川崎ゆきお


「寒いですなあ」
「冬ですから」
「そんなとき」
「はい」
「日溜まりです。日溜まり」
「ああ、日溜まりねえ。日向ぼっこができるような場所でしょ」
「もう向日葵も消えていますがね」
「冬でもコスモスはまだ残ってますよ。秋先、よく眺めていましたがね、最近は見向きもしない。やはりあれには鑑賞の旬があるのでしょうねえ」
「向日葵は日を向く。人を向けば、向人葵だ」
「人はヒマワリじゃなく、ヒトマワリかもしれません。人を向く」
「それで、日溜まりじゃなく、人溜まりもできる」
「はいはい」
「さっき、ここまで歩いてくるとき、寒いですが、日溜まりがありましてね。日が射している場所です。そこに入った瞬間ぽかぽかだ。これは良い。安らげます。ほっと一息つけましたなあ。すぐにまた日陰になり、寒く厳しくなりましたが」
「夏場は日陰を選んで歩いていたのにねえ」
「あれも一息つけます。冬場の日溜まりと、夏の日陰は近いものがあります」
「そうですねえ」
「憩いとか、和むとか、安らぐとかは必要でしょうねえ。ただ、暑くも寒くもなければ、日陰も日溜まりも大したものじゃなくなる」
「それで?」
「ああ、感想ですよ。そういう和んでいるときは、面倒なことは考えない。まあ、休憩しているようなものですよ。ここでは、のんびりと、和むことに専念する。だから、そういうところで、シビアなことは封印です」
「ほっと一息を楽しんでいるわけですからねえ」
「そうそう。そういうときに面倒な話を持ち込んだりされると迷惑だ」
「何かありましたか」
「休んでいるときに起こされるようなものだからね」
「ありますよ。昼寝をしているときセールス電話で起こされることが。出るまで分かりませんからね、滅多に電話などかかってこないので、何かあったのかと思うと、ネットが安くなりますが、とか、お墓の分譲がどうのとか、新築マンションのご紹介ですとか、着物高く買いますとか……」
「はいはい、ありますなあ」
「そんなことでわざわざ起きあがり、電話機をとる。これは何でしょう。迷惑な話だが、急用で身内からの連絡かもしれないしね」
「まあ、電話で良いことはあまりないですよ」
「セールスもそうですか」
「向こうから言ってくることは、向こうだけが益する話なんです。そんな良い話、相手から言ってきませんよ」
「あ、シビアな話をしてしまいました。ここは日溜まりのような場でしたよね」
「そうですが、ずっと日溜まりにいると、のぼせてくる」
「のんびりするのは良いけど、長くは持たないものです。それに飽きるわけですね」
「だから、多少は忙しく立ち振る舞い、休憩が必要なときに、一息入れる。ずっと入れっぱなしじゃ、今度は刺激がほしくなる。休憩オーバーで、飽きてくるんでしょうなあ」
「はいはい」
「今度は軽く解決するようなトラブルがほしくなる」
「トラベルじゃなく、トラブルですか」
「人は勝手なものだ」
「はい」
「外敵がいなくなれば内紛を始める」
「内ゲバですねえ」
「懐かしいねえ、学生の頃が」
「ゲバ棒を売ってましたよ」
「ゲバラのゲバだ」
「暴力のことですよ」
「その当時に比べれば、世の中平和なように見える。頭を低くして暮らしていれば、平和なものだ」
「しかし、世の中、水面下で怖いことが起こっていると言いますよ」
「そんなのは、いつの世でも同じさ」
「はい」
 
   了
 

 

  


2014年12月17日

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