小説 川崎サイト

 

達成感

川崎ゆきお


 岩田はネット上の仕事をしているが、何か物足りない。その何かとは充実感だろうか。達成感のようなものだ。それは大きな仕事をやり終えたときに感じた。
 岩田はいろいろな仕事をしてきたが、ネット上の仕事に代えてから、それが顕著になった。仕事が一段落した後、物足りなさを感じる。何が足りないのかと自問すると「お疲れさん」のような言葉だった。よくやったと褒めてもらいたいわけではないが、区切りが曖昧なのだ。
 今回の仕事は打ち上げをしてもいいぐらいなのだが、一人ですべてやったので、仲間はいない。
 しかし、そのことではなく、岩田自身に感慨がない。いつもなら一段落したので、今まで忙しくてできなかったことをしたり、自分自身へのプレゼントのように、褒美の品を買ったりした。だが、そういう気にもなれない。何か淡々としているのだ。
 依頼主と顔を合わせたことも、電話で声を聞いたこともない。メールのやりとりだけなのだ。
 それは別にかまわないのだが、岩田自身に達成感がない。仕事を果たしたからといって、達成感に浸る必要はないのだが、大きな山を越えた後の解放されたような気分がないのだ。
 一区切り、一段落付いた後の憑き物が降りたような解放感がない。これはネットの仕事をするようになってから感じるようになった。一人でやっているためかもしれないが、パソコンなどのモニターを使いだしてからだろう。世界そのものがモニターの画面内にあり、そこで殆どのことが行われる。要するにモニターを見ているのであって、実物を見ていないのだ。
 そういう問題より、仕事を終えた解放感が沸かない。かなり大きな仕事をしたはずなのだが、反応が何もない。それを期待しているわけではないが、せめて岩田自身の中で、やっと終わったという気分で盛り上がりたいのだ。その盛り上がりがない。だから不満なのだ。
 しかし、それで支障が出るわけでもない。仕事はうまくこなせている。だが、実感がない。
 毎日毎日モニターばかりを見ている生活。その背景に実体はあるのだが、実体から受けるおまけのようなものが削ぎ落とされている。
 やっと一段落したのに、岩田は暗い。カタルシスがないのだろう。
 
   了


   



2015年1月19日

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